教育 日本

埼玉カンニング自殺、最高裁棄却ー自殺に年齢は関係あるか?(渋井哲也)

Tokorozawa_High_School
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2009年5月、首都圏の私立高校に通う高校3年生(当時)だった男子生徒が自殺した。学校内での死亡だったことで、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付(死亡見舞金)の対象だと思った遺族が申請した。しかし「高校生の場合、故意による死亡」は対象外とされた。遺族側は同センターを相手に提訴した。一審、二審と敗訴。最高裁に上告していたが、このほど、棄却された。

 

最高裁第二小法廷は、最高裁への上告は憲法違反か、手続き違反など場合に限られ、原告の主張は、実質は事実誤認もしくは単なる法令違反を主張するもの、または上告の前提に欠く、として棄却した。

控訴審までの判決によると、09年5月、首都圏の私立高校の校舎4階から男子生徒が飛び降り自殺した。中間テストでのカンニングが見つかり、指導を受ける直前だった。同校ではカンニングが発覚すると、全科目「0点」。試験後、担任が「やったのか?」と聞くと、生徒は黙って頷いた。

担任は職員室で指導しようと、移動中に男性生徒に「(教室へ戻って)荷物を取ってきなさい」と言ったが、その後、生徒は教室に戻らず、4階に上がり、廊下窓から飛び降りた。7月に遺族は同センターに死亡見舞金の申請をしたところ、11月に、高校生の場合、「故意による死亡」は支給対象ではないと却下された。

 

基本的な事実認定では争いはない。しかし、同センター施行令には「故意に、負傷し、疾病にかかり、又は死亡したとき」は、災害共済給付は行わないとされている。争点は、男子生徒の自殺が「故意による死亡」かどうか、遺族側は「学校管理下における事故」であり、「自ら望んで望んだ死」ではなく、指導によって「追い詰められた死」であると訴えてきた。

 

遺族側からは意見書が出された。書いたのは、心理学的剖検調査(自殺をした本人が生前にどのような思考や行動をとっていたのかを遺族などに聞き取りをする方法)に取り組んでいる精神科医の松本俊彦氏。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所に勤務し、同研究所の自殺予防総合対策センターの副センター長でもある。

松本意見書では「少なくとも自殺する当日の朝までは自殺の意志がなく、計画性を欠いた衝動的なもの」、「『カンニングの発覚』という危機的事態に際して選択した解決策はあまりにも『割に合わない』ものであり、『これだけの苦痛があれば、自殺したくなる気持ちも理解できる』という動機の了解可能性もない」。「本人が体験している主観的苦痛や年齢的な未熟さや個人の特性とともに、衝動性の著しい亢進など、異常な精神状態などの要因を考慮せざるを得ない」としている。つまり、「故意による死亡」ではない、という内容だ。

 

東京地裁判決では、自殺直前に冷や汗、顔面蒼白、挙動不審、逃走などの行動変化が認められなかったため、「正常な判断能力を兼ね備えた自殺」と結論付けている。それに対して、松本意見書ではそうした見方を否定している。むしろ、自殺直前には、解離状態になっている可能性を指摘している。なんらかの苦痛があったとき、心理的な防衛本能として、一時的に体外離脱や記憶喪失が生じるのだ。

同センターの施行令では「中学生と高校生とでは行為の結果の予測に違いがある」として、死亡見舞金の支給条件を変えている。学校生活に起因するならば、中学生の自殺には支給するが、高校生の自殺には支給しない。これに対しても、松本意見書では「両者のあいだにおける自殺の容態や精神状態の違いを明らかにした報告はない」として、中学生と高校生のあいだで給付条件を変える根拠はないとした。

 

控訴審では松本意見書は採用されなかった。松本医師が男子生徒を直接診断したわけではないとして、提出された意見書や心理学的剖検による見解を否定した。しかし、過労死や過労自殺の裁判の際に、死亡した者がどのような心理だったのかを推論することは通常の手続きと変わりはない。この控訴審判決は、この男子生徒の自殺を「故意による死亡」としただけでなく、過労死や過労自殺の認定方法も否定したことになる。だが、死亡認定については年齢や属性で単純に判断しないことが求められる。

 
渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙を経てフリーライター。子ども・若者の生きづらさ、自殺、自傷、依存、虐待の問題を主に取材。教育問題やいじめ、少年犯罪、性犯罪、性の多様性、ひとり親、東日本大震災などもテーマにしている。著書には『自殺を防ぐいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、近著に『復興なんて、してません』(第三書館、共著)などがある。ツイッターIDは@shibutetu

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