日本 近現代史

【憲法改正】各テーマでどのような議論が行われているのだろうか?

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前回の記事(日本国憲法はどのように作られたのかー成立過程を振り返る)では日本国憲法成立までの過程を振り返ったが、それに引き続き、今回は憲法成立から今に至るまでの議論を整理したい。憲法に関する議論には、字句の修正・追加に関する議論と内容の変更に関する議論の2種類があるが、本記事では特に、後者の議論を扱うこととする。日本国憲法は11の章からなるが、以下ではこれまでにあった主な議論を、章別に見ていく。現行の日本国憲法も参照されながら、自身の意見形成に役立てていただければ幸いである。

 

第2章 戦争の放棄

昨年大きな話題となった第2章の第9条については、安全保障政策に大きく関わる条文であることもあり、活発な議論がなされてきた。1954年に自衛隊が創設されて以降は、「自衛隊は合憲なのか」という議論が行われた。歴代政権は合憲と解釈してきたが、9条で保持しないとされている陸海空軍に該当するため違憲だとする見方も根強い。そして、昨年9月に成立した平和安全法制(いわゆる安保法案)によって一応は認められた集団的自衛権を認めるかどうかも大きな論点として扱われてきた。

これらの論点は、結局のところ「どのような安全保障政策をとるか」という議論が先にあり、その結論に合わせて、「憲法解釈の変更または憲法改正のいずれの手段を選択するか」という議論の順で考えると理解しやすい。安倍政権は、集団的自衛権の行使を認め、日米同盟の強化や国際平和維持活動における業務拡大を行った方が、平和維持につながると考え、憲法解釈の変更という手段をとった。

また、自衛のための軍隊は必要との考えから、自衛隊を国防軍として表記する憲法改正という手段も取ろうとしている。軍隊を持ち、集団的自衛権が行使できた方が良いという主張に対する反論としては、かえって他国からの攻撃やテロなどを誘発することになるという意見がある。

ただし、手段の部分に関しては、憲法解釈の変更という手段自体認められないとする意見も多い。先週の18日には、民主党と維新の党が安保法案の対案を共同提出しており、今後も主要な論点となることが予想される。

 

第4章 国会

この章では、参議院の機能が論点となっている。現行の憲法では「ねじれ国会」が発生する恐れがあり、それを回避するために、一院制への変更や衆議院の優越を今よりもさらに強めるべきといった意見が出ている。現行の憲法でも、「参院が否決した法案を3分の2以上の多数で再可決して成立させられる」という衆議院の優越は認められているが、3分の2以上というハードルが高すぎるため、不十分との指摘がある。

また、参議院議員の選出方法を改め、参議院の機能を変更するというアイデアもある。例えば、民主的・公正な組織の推薦によって決めた候補者を有権者が選挙する推薦制を導入し、専門知識・経験に優れた人材で構成される、衆議院の暴走をチェックする機関にすべき、という意見もある。

現在の参議院の機能縮小を企図する意見に対しては、当然ながら参議院側からの反発が大きく、このような方向性での改憲のためには、国民的な議論が必要となるだろう。(関連記事:おおさか維新の会が提案する一院制のメリット・デメリットは?

 

第5章 内閣

この章では、主に首相の権限についての議論がある。首相の権限は、官僚主導から政治主導への転換を目指して、強化する方向性の改正案が出されてきた。例えば、自衛隊の最高指揮権、行政各部の指揮監督権・総合調整権、衆議院の解散権を明確に首相に与えるものなどである。

首相の権限を強める方法として、首相の選出方法も論点となる。特に、小泉純一郎氏が2001年の首相就任当初から導入を訴えた首相公選制は大きな議論を呼んだ。首相公選制とは、国民が選挙で直接的に首相を選出する制度であり、具体的には、国民が首相と副首相を直接投票して選ぶ大統領型や、政党が衆院選での首相候補を明示する現行憲法の枠内の改革案などがあげられた。首相のリーダーシップが強化され、迅速な意志決定が可能になることと、政治に民意がより反映されるというメリットがある一方で、議会の多数派を基盤としない首相が選出された場合はむしろ国政の停滞を招くことや、公選首相による独裁の恐れがあることがデメリットとして指摘されている。

また、首相の権限強化に関連して、緊急事態条項を設けるか否かという議論もある。自民党の憲法草案では新たな章として盛り込まれているが、内容としては、大災害の発生時など緊急時に首相に権限を集中させるというものである。当然、基本的人権が侵害される恐れがあると指摘する反対の声は大きく、また、法律で規定すれば十分とする意見もある。

 

第6章 司法

憲法裁判所の創設が検討されている。憲法裁判所とは、権利侵害に関する具体的な裁判の提起なしに法令の合憲性判断を行う裁判所である。「1票の格差」をめぐる訴訟の際に、各地の高裁で憲法判断に関しバラバラな判決が出て混乱するということがあったが、このような事態を防ぐために、最高裁判所のほかに憲法裁判所を設置し、憲法問題を一括的かつ終局的に解決させることを目指すものだ。

新たに憲法裁判所を設けるのではなく、最高裁の中に担当部署を設置すれば憲法改正は不要との意見もある。また、「国権の最高機関である国会の法律を、民主的基盤のない司法で裁くのは問題がある」という反対論もある。

 

第8章 地方自治

この章では、道州制の導入の是非が焦点となっている。小泉内閣の時代に、北海道道州制特区推進法案が国会に提出され、安倍内閣に交代後、成立した。引き続き、安倍首相は総裁選にて道州制の導入検討を公約に掲げていたが、2007年9月の突然の退陣によって議論は白紙となった。道州制の導入によって期待されるメリットとしては、行政改革の徹底と効率的な行政システムの構築があげられている。

一方で、「連邦制を目指すのでなければ、あえて憲法で道州制の規定を設ける必要はない」という指摘もあり、何を目的としどの手段をとるかという基本的な部分について、今後も熟議が必要だと思われる。

 

第9章 憲法改正手続き

改正要件の緩和の是非が焦点である。憲法改正の発議要件は、現行の憲法では「各院の3分の2以上の賛成」とされているが、それを「各院の過半数の賛成」に緩和すべき、というのが主要な意見である。反対派からは「立憲主義を脅かす」といった主張が聞かれる。

また、基本的人権の保障をはじめとする三大原理など、重要な事項を改正する発議要件は3分の2を維持するという折衷案もある。

緩和賛成派の主張を支える情報として、他国と比較した時に、日本の改正要件は厳しいという事実がある。例えば、日本以外のG8諸国で、憲法改正に国民投票を必ず実施するとしている国はない。また、発議要件を各院の過半数とした場合、今まで以上に国民投票が行われる可能性は高まるが、果たして国民投票は信頼に足るのかという意見もある。立憲主義や民主主義といった国家の屋台骨にも影響するのがこの論点であり、国民一人ひとりが当事者意識を持って考えるべきトピックであろう。

 
以上、おおまかにではあるが、憲法の各章にまつわる主な議論を確認してきた。当然ながら、憲法は国家の統治の基本を定めるものであり、どの条文であれ、改正すれば長期的に大きな影響をもたらすはずだ。ぜひともこの記事をきっかけに様々な意見に耳を傾け、各自が納得のいく意見形成を目指していただきたい。

 

【参考文献】

  • 読売新聞政治部(2013)、『基礎からわかる憲法改正論争』、中央公論新社
  • 井芹浩文(2008)、『憲法改正試案集』、集英社

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