ヨーロッパ 経済

イギリスが「Brexit」したらどうなるか ー アナ・パラシオ(スペイン元外相)

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ヨーロッパ連合(EU)からのイギリスの離脱の可能性が現実味を帯びてきた。次回のEU首脳会議は、EU加盟条件に対するイギリスの改革案を協議する可能性が大きい(編集部注:20日に改革案は合意された)。早ければ今年の夏に行われる可能性がある(編集部注:6月23日)イギリスの国民投票前にその改革案は提示される。

しかし、全てのことを急いで推し進めると同時に、イギリスとEUは注意深く考える時間も必要である。結局、双方が合意に至っても、国民投票をどのように実施するか、さらにはもしイギリス国民が離脱を選択した場合、その結果にどのように対応するか知る人は誰もいない。

 

イギリスもBrexitの結果をよくわかっていない

国民投票は最も間近に迫っている先行き不明事案である。過去の経験上、有権者がそのような決定を行うとき、その目の前にある問題について有権者の論点が一致することはほとんどない。例えば2005年のEU憲法草案についての国民投票において、オランダはユーロに注目し、一方フランスはポーランドの配管工が国民の仕事を奪うかもしれないことを心配していた。

今のところ、次のイギリス国民投票が同じ結末をたどる徴候がある。有権者は実際的な検討事項よりも単純化した考え、偏見や感情的なことにより傾いている。そして反EU陣営はそのレトリックにおいてはるかに熱情的で挑発する側にいる。

ヨーロッパ人にとって、これは大きな不安である。よく知られているように、イギリスの離脱でEU統合は壊滅的打撃を受けるかもしれず、もしかしたら既に傷ついている状態が解体につながるかもしれない。しかし、離脱がどのような事態を引き起こすのかほとんどわからないのであれば、イギリスは離脱の結果についても心配するべきだ。

そして、問題は多くのイギリス人が、「Brexit(EU離脱)」が引き起こす混乱についてほとんど気づいていないことである。スコットランドの独立運動、アイルランドの聖金曜日協定やイギリスとアメリカの「特別な関係」の影響以上に、将来のイギリスとEU関係について重要な問題である。離脱を主張する多くの人は、EUのカナダやシンガポールとの自由貿易合意の条項のような、政策と規制を選り好んで、EU外でイギリスに好ましい生活を組み合わせようとしている。彼らはイギリス国民に、ロンドンがヨーロッパトップの金融の中心地であり続けるだけでなく、労働の自由な移動がなくともイギリスはEUの単一市場に参加し続けると信じこませようとしている。

 

貿易や投資協定で英国の影響力を大きく低下させる

しかし、これは全くのファンタジーだ。イギリスは防衛や外交政策に関して強い国際的地位を維持するかもしれないが、イギリスの貿易の半分を占めるEUとの交渉も含め、貿易や投資協定での強い影響力は著しく低下するであろう。それはスイスやノルウェーのような非EU国が経験したことである。実際、EUの首脳らはスイスがその単一市場に参入していることに既に不快感を持っている。特に顔を叩かれたのに、EUがそのような市場への参加をイギリスに与えるという考えは納得のいくものではない。

Brexitは、1985年に交渉しグリーンランドが欧州経済共同体(EEC)から容易に離脱したことに似ていると主張する人もいる。そのような離脱はそれ以来起こっていないのだが。しかも、状況は大きく異なっている。

30年前の限定的なEECは今日の強固なEUと比較することはできない上に、グリーンランドはイギリスと比較して経済規模や政治的重要性も非常に弱い。

さらにグリーンランドの離脱は、EEC加盟国のデンマークと体制上のつながりを持つことで大きく緩和され、ヨーロッパ各国に対する関心を示し続けた。イギリスには障害を取り除いてくれるそれに相当する支援国はなく、離脱のための選挙後の交渉は複雑で厳しいものとなり、何年以上も引きずる可能性がある。

 

EUはイギリスの要求を受け入れるべき

これら全ての不確実性は、ビジネスと一般市民両方に大きな被害を与えるであろう。どのような法的処置が設定されるか知ることもなく、イギリスに長期的な投資を行う者などいないであろう。

この問題を避けるために、EU首脳会議はEUの基本的な柔軟性を示しつつ、イギリスにEUのメンバーとしてより安定的な展望を約束すべきである。すでにイギリスはシェンゲン協定圏、ユーロ、司法と内政からの離脱が認められている。つまり、EUはすでにイギリスのデーヴィッド・キャメロン首相の求めに対し適当な妥協案を模索する意欲は示しているのである。

競争力の強化や規制の緩和のようないくつかの分野では、同意は比較的簡単に行われるであろう。EU法律制定する際に国会に大きな役割を与える合意も可能だろう。

 

最後の問題、移民と福祉は困難となるかもしれない。キャメロン首相は、イギリスで働くEU移民の仕事と児童手当について、4年間の「中断」を求めた。しかし多くが賛成するその提案は差別的だ。これはシリア人というよりも、ポーランド人やラトビア人に影響する。

1953年のウィンストン・チャーチルの有名な宣言にはこのようなものがある。「我々はヨーロッパと共にあり、中にいるのではない。我々は結びついているが、それは妥協によるものではない」。もし次のEU首脳会議がこの思いを反映し歩み寄りができたら、Brexitは避けることができ、全ての人の利益となるであろう。しかし、国民投票が迫るにつれ、その妥結ですらも十分でないかもしれない。イギリス世論を支配し続ける幻想と誘導によって、イギリスそしてEUには、酔いの冷めるような大きな驚きが待ち受けているかもしれない。

 

Ana Palacio(アナ・パラシオ)
スペイン元外相、元世界銀行上級副総裁、現スペイン国会議員。
国内独占掲載:© Project Syndicate

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