中東 教育

難民の子どもたちを助ける突破口とは?ーゴードン・ブラウン(イギリス元首相)

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ロンドン ー 先にロンドンで閉会した国連の第4回シリア和平会議の宣言に埋もれてしまい、小さくしか報じられなかったが、大切な約束が結ばれた。来年までにすべてのシリア難民の子供たちに教育の場を提供するというものだ。

 

難民は平均10年間故郷から離れる

世界はようやく、紛争地域の子供たちに教育を提供する必要性と真剣に向き合い始めたのだ。これまで教育に向けられた国際的人道支援は公約した資金の2パーセントに満たない。まだ充分な資金は拠出されていないが、この風向きの変化は、人道的支援が数週間や数ヵ月というスパンでは片付かないということ、そして難民に必要なものは食糧や避難所だけではないということを、ようやく政府や支援機関が気づき始めたことを意味する。

教育の場を閉ざされた数百万人もの子供達が直面している困難を考えれば、我々は今回の約束を遂行すべく政治的決意を固めなければならない。難民たちは平均して10年間、故郷から離れて過ごす。なんの介入もなければ、シリア内乱で難民となった子供たちの多くは、学齢期に教育を受けないことになるだろう。そして、さらに2400万人の子供たちが世界中で紛争のために教育を受けられないでいるのは、言及するまでもない。大人になって彼らは、教育によって得られたはずの達成感や希望を奪われながら、避難所や掘っ建て小屋、路上で過ごした子供時代を思い返すのだろう。

 

教育を受けられなかった子どもは搾取される

しかし教育が失われるということは、感傷以上の代償をもたらすものだ。教育が滞れば(奪われるというべきか)、子供たちは学校からの庇護を失う。彼らの多くが搾取を受けることになる。少女たちは不正業者のターゲットとなり、想像を絶する悪の深淵へと消えていくことになる。少年たちは工場か戦いの前線に、送り込まれることになるだろう。

大人たちは、しばしば避難先の国で働くことを禁じられるため、幸運にも親が生き残っている子供たちは、どんな仕事でも受け入れ、わずかな賃金を家族に与えるため、働かざるをえなくなる。しかし針仕事や土方仕事や戦闘では、いくら働いても教育のように将来を保証してくれるものにはならない。

 

教育こそが未来へのパスポート

シリアでその代償を目の当たりにすることができる。子供たちは与えられるものはなく、そこで家族は将来のどんな希望も諦め、危険な、そして命取りともなることもよくあるヨーロッパ行きの船に乗り込む。国に残った子供たちは、予測できない将来への恐れから、安易に過激派に徴兵されてしまう。もし我々が難民のヨーロッパへの流入を緩和させ、子供たちの過激化を阻止し、シリア復興への準備をしようと真摯に望むならば、難民受け入れではなく(ましてや過激主義に陥らないのは言うまでもなく)、教育こそが子供たちの未来へのパスポートになると捉えるべきなのだ。

難民の教育への資金援助が、うまくいっていないのは決して偶発的なものではない。これはシステムの構造的欠陥が招いた結果なのだ。このシステムは人道支援用予算(そのうち98パーセントは食糧、避難所、医療に充当)と開発支援(当然のことながら長期的な支援)の間に来るべき、学童たちの要求が考慮されていないのだ。

 

資金調達へのコミットが必要

今やシリア難民の子どもたちの教育が、人道的支援の責務であると認識されたのだから、その資金を集める手段を見つけなければならない。上記の約束では、年間資金として少なくとも14億ドルの必要性を参加者たちが「指摘した」ことしか言及されていない。多くのことが約束されたが、それが間違いなく実行されるようにはなっていない。そして例え実行されたとしても、毎日子供たちが避難してくるのだから、さらにもっと多くが必要となる。

5月にイスタンブールで開催される世界人道サミットほど、このロンドン宣言に基づいて事を進める絶好の場所はない。世界最大の難民危機の中心地で、私がHOPE基金と呼ぶものを設立することによって、我々はもう一歩前進しなければならない。HOPE基金とは、緊急時の教育の提供のための人道的活動であり、紛争地での教育を保証する最初の永久基金だ。

 

ベイルートの難民受け入れセンターで私が会った12歳のアハメドほど、HOPE基金を必要としている子供はいない。ほとんどのシリア難民同様に、彼の教育の場は閉ざされていて、再び教育を受けることは絶望的だった。わたしは彼に成長したら何になりたいか尋ねた時、彼は躊躇することなく答えた。「エンジニア」だと。私は子供たちが自分のなりたいと思う夢について、話してくれるのに慣れている。例えば航空機のパイロットからラップ・アーティストに至るまで様々だ。しかしエンジニアは無かった。なぜエンジニアなのか。「祖国に戻るため、そしてシリアを再建するため」。

民間基金、各国政府、企業には寄付することを全面的に約束して貰っていて、私が構想しているHOPE基金は、年末までには運営することができるだろう。シリア難民のための教育資金として、50社が既に70ドルの拠出を約束しており、最も起業家精神に溢れ、革新的な企業こそが、平和に向けたパートナーになれることを証明している。

 

オンライン授業など世界中からできることがある

我々の目標の一つである、難民キャンプでの子供たちのデジタル・データへのアクセスとオンライン授業について考えてみて欲しい。今日、世界中の科学技術の天才たちが、地球の反対側から自分の家の電燈を付けることを教えることができるのなら、緊急時に彼らは教育のために何ができるのかを考えてほしい。我々は彼らを説得して、教師と難民の子供たちのために、オンライン授業を提供する取り組みに協力してもらわなければならない。

 

レバノンの成功事例

幸運なことに、我々はこうした取り組みを勢い付かせる成功体験を持っている。この一年で、レバノンは207,000人の学習機会をつくることによって、弱りきったシリアの子供たちを、路上生活から脱却させたのだ。2交代制により、レバノンの子供たちには、日中の早めの時間に教室を使用して貰い、その同じ教室で、シリアの難民の子供たちが午後と夕方早めの時間に授業を受けることができるのだ。 この成功裡に終わった実験により、2016年に100万人のシリアの子供たちに、そして2017年には彼ら全員に教育を提供することが可能であることが証明された。レバノンの事例に倣って、トルコとヨルダンの両国は、難民のための学習機会の数を増やす計画を発表している。

 

もし我々が世界の最も戦争で荒廃した地域の一つで成功することができれば、どこか他のところで、状況が前進する可能性は、はるかに高まるだろう。南スーダンとイエメンでの忘れ去られた難民の子どもを、暗闇から抜け出せるように導くこともできるだろう。ミャンマーの迫害された少数民族は、自国の芽生えたばかりの民主主義形成を手助けする機会を得るだろう。そしてアフガニスタンとパキスタンの国境で長く苦しんできた少年少女たちは、未来を築くツールを与えられるだろう。

世界は病気や災害と戦うために協力を繰り返してきた。我々は、独裁者や暴君に対して抗議のため結集し、彼らを打倒してきた。さあ、子供たち全てに教育を受けさせる、最初の世代になろうではないか。

 

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Gordon Brown(ゴードン・ブラウン)

イギリス元首相、元財務大臣。現在は、国連の教育担当特使、世界教育機会資金調達国際委員会の議長を務める。

国内独占掲載:© Project Syndicate

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