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どうすれば汚職をなくせるか? ー ルーシー P.マーカス(マーカスベンチャーコンサルタントCEO)

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ロンドン ー 汚職は世界的な悩みの種であり、時として世界諸国にあまりに深く根付いてしまっているため汚職と闘うことは不可能であるかのようにみえることもある。1月にトランスペアレンシー・インターナショナルは同団体が毎年発行している「腐敗認識指数」を発表し、汚職問題は「今なお世界中で疫病である」と記している。

例えば、IMFはウクライナに対して、400億ドルのIMFによる財政援助が、政府関係者の汚職によって盗まれるかもしくはばら撒かれる恐れがあるために打ち切られるかもしれないと警告したばかりである。そして、ローマ教皇は最近のメキシコ訪問において、メキシコの指導者たち、(大統領夫妻を含む)その中の数人は利益相反のスキャンダルに巻き込まれているのだが、に対してメキシコの汚職と闘うよう呼び掛けた。

 

唯一重要なのは投資収益率

しかし、ここ数年企業ガバナンスの世界において私たちが目にしてきたように、改革は可能である。10年も経っていないつい最近まで、企業は、その権威が不可侵であると思われていた数人が管理する「ブラック・ボックス」の中で経営されていた。これを変えようと考えた”物言う株主”は、面倒な人々、つまり決して何かを改革することはない夢見がちの社会活動家だとみられていた。「現実主義者」は、唯一重要なのは、人間や地球、経済に対するコストではなく、投資収益率だと主張した。

 

「企業ガバナンスの新パラダイム」

現実主義者は誤りであった。年初以来、バークシャー・ハサウェイ社のウォーレン・バフェットとJPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモンは、企業ガバナンスの改善方法について議論するために他のビジネスリーダーと会議を開いている。2月1日には、投資会社ブラックロックCEOのローレンス・フィンクが、世界最大規模のいくつかの企業に対して書簡を出し、同書簡の中で、短期主義に手厳しい警告を与えるとともに、企業が明確な戦略計画を策定するよう求めた。

その翌日、企業法務専門弁護士で、長年にわたって”物言う株主”を批判してきたマーティン・リプトンは、「企業ガバナンスの新パラダイム」と題する覚書を発表した。リプトン弁護士は、長期アクティブ投資家は存在し続け、それゆえ企業は、環境、社会、ガバナンスについてより高い基準を順守するとともに、企業の社会的責任を強調する必要があると認めた。

同様に、ノルウェーのソブリン・ウェルス・ファンドは最近、同ファンドのポートフォリオにある企業に対して人権関連の記録について説明責任を求めると発表した。そして、かつては取締役会における異性間の平等は1世代(約30年)分の期間内で達成されるかもしれないと言われてきたが、女性たちは、イタリア、ドイツ、フランスにおいて過去1年内に採択された性別割り当てを求める法律によって利益を得ることであろう。

これらのいずれも一夜に生じたことではない。現在、改革がなされる速度は上がっているが、それは長期にわたって積み重なった勢いがあってこその結果である。内部告発者は口封じを受け入れず、報道関係者は企業の不正行動を調査し、投資家は投資先選択について説明責任を求められた(その結果投資家はノルウェーのソブリン・ウェルス・ファンドのように行動することになった)。こうした数々の要因が積み重なって、少し前までは想像もできなかったような変化が生じたのである。

 

汚職との闘いは困難かつ孤独

もちろん、まだやらねばならないことはたくさんある。「任務完了」の旗を掲げている者はいない。しかし、改革のプロセスは汚職との闘いの道筋を提示している。

ほんのわずかなNGOしか汚職に懸念を表明しておらず、時折、数人の勇敢なジャーナリストが自らあるいは他の人が見たことについてなんとか執筆することができている。汚職との闘いは、困難かつ孤独な仕事で、ほとんど成果を見せることもできない。ギリシャ神話のシジフォスの話にでてくる際限なく徒労を繰り返す仕事であるかのように思える。

しかし、これらの人々が上げた声は、何倍にもなって強靭になり、より強烈な勢いを生んできた。

 

起訴され続けている企業や政府関係者

世界各国は、2010年英国贈収賄防止法のようなより厳しい法律や、更なる法律の制定と施行を促進している国連腐敗防止条約のような広範囲にわたる監視メカニズムを採択している。企業は、汚職対策規則を遵守するよう強い圧力を受けており、ウォールマートのメキシコにおける汚職スキャンダル(米国連邦海外腐敗行為防止法に違反)から、ペトロブラス、ロールスロイス、テリア・ソネラ、FIFA(国際サッカー連盟)といった現在警察の標的となっているものに至るまで、多くのよく知られた事件の存在は汚職を抑制する力を強めることになるだろう。

さらに政府関係者も起訴され続けている。グアテマラの元大統領であるオットー・ペレス・モリーナは、辞職を余儀なくされたのに続き汚職によって収監されている。インドネシアの国会議長を務めたセティヤ・ノヴァントもまた、鉱業会社であるフリーポート・マクモラン社の子会社から金をゆすり取ろうとしたことが判明し、辞職させられた。そしてインドネシアの汚職問題特別裁判所は、同国の元エネルギー鉱物資源担当大臣ジェロ・ワチックに対して4年間の収監という判決を出したしたばかりである。

 

汚職を見逃せない人々

ジャーナリズムはより大きな役割も果たしている。報道関係者は、より多くの知識を蓄え、報道内容を配信するためのより多くの手段を得た。これにはソーシャルメディアも含まれる。報道関係者は、目に余る汚職を前に沈黙できない人々について報道している。例えば、欧州の最貧国モルドバでは、十億ドル規模の金融スキャンダルによって、新たな選挙の実施を求める国民の抗議デモが22回も起こった。

本物の変化を意味する勢いとはこのようなものである。実際に、多くの政府関係者は、原則に則った立場をとっている。ウクライナでは、アイヴァラス・アブロマヴィチュスが、汚職対策措置に対する高官の妨害に言及して経済発展貿易大臣を辞任している。

 

政府関係者によって汚職を取り締まることは確かに効果がある。プラダやLVMHといった世界中の奢侈品販売者は、中国の贈収賄の取締りを販売不振の原因として挙げている。今年のはじめには、習近平国家主席は中国が「誰も汚職をしようなどと考えない」国になることを望むと述べた(もちろん、中国の汚職に関する政策はそれ自体政治的な色彩が強すぎるという懸念がないわけではない)。

汚職は、権力と秘密と弾圧が重なり合うところではどこであっても蔓延するものだ。汚職は、活発な市民活動、透明性、怠りない法執行によってなくなる。汚職は中々なくならないものだと考える人は、企業ガバナンスが変革し始めたプロセスに注目すべきだ。

 

Lucy P. Marcus(ルーシー P.マーカス)

マーカスベンチャーコンサルタントCEO

国内独占掲載:© Project Syndicate

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