アジア 安全保障

韓国で問題視されているテロ対策法とは何か?

韓国 国家保安法
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韓国の情報機関、国家情報院は、2月18日、与党との会合で、北朝鮮の金大恩(キムジョンウン)第1書記が、韓国へのテロに向けて準備していることがわかったと報告した(関連記事:北朝鮮が韓国にテロを仕掛けることで日韓の動静はどうなるのか?)。

これを受けて与党セヌリ党は対テロ法案を早急に可決、野党を中心に韓国国内でこの法案が物議を醸している。

では実際にどういう法案なのか、他国の対テロ法案とも比較していきたい。

 

対テロ防止法案

今回可決された「対テロ防止法案」とは、テロ関与の疑いのある人物への調査権限を情報機関に付与するもので、携帯電話や口座情報などの閲覧を可能にする。

与党セヌリ党のイ・チョルウ議員は「国民の理解を助けるため」としてQ&A集を公開している。

その中では、「国情院が直接盗聴設備を使った盗聴はしない」、「国内にはテロ関連の法律がなく1982年に作った大統領訓令の『国家対テロ活動指針』しかないので、テロ防止法が必要だ」、「我が国の金融取り引き情報を米国中央情報部(CIA)は見れるのに、国情院は見ることができない」、「テロ防止法を通して、検察、国民安全処、警察、国税庁、関税庁、中央選挙管理委員会、金融委員会の7機関が犯罪捜査のため金融情報分析院(FIU)に資料を要請し閲覧しているところへ国情院を追加するものだ」、といった内容が説明されている。

 

一方、与党セヌリ党が対テロ防止法案を強行可決(職権上程)させたことで、野党からは猛反発の声が上がっている。43年ぶりにフィリバスター(議事進行妨害)が起こっている。長時間の演説は法案採決を遅らせるのが目的で、最大野党「共に民主党」鄭清来(チョン・チョンレ)議員が11時間39分にわたる演説を行なった。鄭議員は、北朝鮮のミサイル発射に対し、国家情報院は、テロに関連した疑いのある人物に対し、国民の携帯電話の調査、口座監視をしても良いのか、と非難した。野党は、反政府的な人物の監視に利用される恐れがあるとして反対している。

韓国には、元々国家情報院に権限のある国家保安法もある。これは、日本統治下の治安維持法が元になったもので、共産主義、南北統一のイデオロギーを持ったと疑われる人間を処罰するために制定された法律である。野党は、国家情報院にさらにテロ対策の権限が託され、人権侵害など、暴走の恐れがあると懸念を示している。

 

他国のテロ対策法

韓国だけでなく、ブラジルでもテロ対策法案に対し、強い反発が起きている。24日、ブラジル議会の上院、下院の両院によって可決され、ルセフ大統領の承認を得て成立される予定だ。この反テロ法案は、「人種や肌の色、宗教などに基づく差別偏見を理由として、社会に恐怖を引き起こすことを目的に、公共の安寧を脅かす行為」などとテロを規定。違反者に禁錮12~30年を科すとしている。

推進派が「リオ五輪でのテロを未然に防ぐものだ」と主張しているのに対し、反対派は、差別的偏見を助長すると主張している。ブラジルではこれまでテロ対策法はなく、テロが起きた際には、武器の不法所持罪などで罪を問われていた。

 
ドイツでは、2001年9月11日、アメリカの同時多発テロ事件の影響から、テロ対策法案の立法措置がとられ、何度も法整備がなされてきた。ただ、情報機関の捜査も議会によって制限されているため、テロ対策と銘打って思想・表現の自由の侵害、人種や肌の色の差別も極力抑えられている。

 
非常事態宣言が続くフランスでは、非常事態の発動要件緩和など大統領権限を強化する憲法改正を行うか議論が行われている。また、その改正案に、テロに関与した二重国籍者からのフランス国籍剥奪、テロ容疑者らの移動制限強化などが盛り込まれ、こちらも議論が進んでいる。

仮にテロ関連の罪で有罪判決を受けたフランス生まれの二重国籍者からの国籍剥奪が認められれば、フランスは二重国籍者の不平等待遇の原則が憲法に組み込まれることになる。27日には、自身も黒人であるクリスティアーヌ・トビラ法相が抗議の意味を込めて辞任した。

 

日本には過去に地下鉄サリン事件などテロが起き、昨今ではISによってテロの脅威にさらされている。今後は伊勢志摩サミットや東京オリンピックも控えている。「共謀罪」など何度もテロ対策法案をつくる動きはあるが、日本弁護士連合会を中心に反対の声も強い。

また、非常事態宣言を出すための法律が存在せず、自民党は憲法改正を行い緊急事態宣言を新設することを訴えている(関連記事:いよいよ現実味を帯びてきた憲法改正、その中身は?)。

本格的な議論が行われるのは参院選後になると思われるが、国民からの理解を得られるよう建設的な議論が行われることを期待したい。

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