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解決しない所得格差 ー ダンビサ・モヨ(エコノミスト)

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ニューヨーク ー 所得格差の問題は、過去10年にわたりテロリズム、気候変動、感染症、景気低迷と並んで世界的な政策課題の1つに数えられてきた。ところが、これまで多くの関心が寄せられてきたにも関わらず、効果的な解決法がほとんど提示されていない。格差を縮小させる最適な政策を示すことは今でも大きな課題の1つとなっている。

 

米国と中国、同程度のジニ係数

この問題が政策当事者を悩ましている理由を理解するためには、世界の2つの経済大国を比較するとよい。アメリカはマーケットを重視する経済、自由民主主義の国であり、ここでは生産要素は民間が所有している。

一方の中国は民主主義を軽視する政治階級が支配する国。この数十年間マーケット志向の改革を進めてはいるものの、経済は国による介入が今なおなされている。

政治、経済のシステムに相当の違いがあるとはいえ、両国の所得格差はほぼ同程度である。所得格差を最もよく反映する指標であるジニ係数は0.47ほどである。

しかし、重要な視点として、両国の状況は大きく異なる。アメリカでは所得格差が急速に広がっている。1978年には人口の最上位1%の所得はそれ以外の階層の10倍だった。現在、最上位1% の平均所得は残り99%の平均的な所得の約30倍となっている。一方、同時期、中国の所得格差は縮小している。

 

政府による介入システムの方が優れている?

この事実は政策当事者に1つの課題を投げかけている。自由市場の資本主義は所得の増加をもたらし経済的な余剰を作り出すのにベストな制度であることは証明されている。しかしながら、所得の分配面ではその実績は相対的に劣っているのである。

多くの民主主義社会では、左寄りの再分配政策か右寄りのサプライサイドアプローチによって問題に対処しようとしてきた。しかしいずれも効果があったとは言えないようだ。米国では民主党、共和党を問わず、いずれの大統領の時代にも所得格差は拡大した。この問題では中国が成功を収めているため、政府による介入システムの方が優れていることが示されている。多くの西側諸国の政策当事者を困惑させる結論だ。

 

不平等は重要ではない?

一方、問題の1つの側面をあまり議論する必要はないという考え方もある。不平等はそれほど重要でないという主張だ。上げ潮によって全ての船が打ち上げられてしまうのなら、どの船が速くてどれが遅いかを論じるのは無意味、という考え方である。

所得格差をあまり重視しない人は、全ての人が最低限の生活水準(栄養のある食事、必要十分な住居、一定程度の品質を持つ医療、現代的なインフラ)を保証できるようにするのが公共政策の役割であると主張している。豊かな人と貧しい人の所得格差を縮めることではないという考え方だ。実際、所得格差は経済成長を促すほか、再分配政策が行き過ぎると勤労意欲を減退させるので、生産性の低下や投資の減少、さらには経済全般への悪影響がもたらされると主張している人もいる。

 

社会的移動は低下

しかし社会は経済成長だけで栄えるものではない。貧しい人が生活を改善できる術を見つけられないのであれば社会は悪影響を被る。アメリカ(それ以外の国も)の社会的移動(地位が変化すること)は低下を続けているが、「アメリカン・ドリーム」(これには懸命に働けば親世代より豊かになれるという考え方も含む)に対する信条が重視されないという結果がもたらされている。一番下の所得階層で生まれたアメリカ人が最上位の階層に上ったところで人生を終える確率は、この30年間で半減した。

 

世界的に落ち込む経済成長率

確かに、大きく発展している国もある。過去50年間、中国やインドといった国は2桁の経済成長率を達成し、世界のジニ係数は0.65から0.55に低下した。しかしこれ以上の改善は少なくとも近い将来はあまり期待できないだろう。

多くの新興市場における経済成長率は7%、一世代で国民あたり所得を倍増できる基準値を下回るようになっている。多くの国では、貧困レベルを下げられる水準に到達できないほど経済成長率が落ち込んでいる。

経済見通しが弱気になると深刻な結末が待っている。格差の拡大は、国民の将来見通しが暗くなる中で政治的な不安定につながる。2016年のアメリカ大統領選で158人の裕福な人からの寄付金が全体の半分を占めているという事実は、所得格差が政治的な不平等につながる懸念を浮き彫りにしている(関連記事:トランプ現象の背景ー米国 中産階級の没落)。

世界的に見れば、経済格差の縮小が緩慢になっていることは同じような意味を持つ。豊かな国が世界中で大きな影響力を維持しているが、それは貧しい人々の不満や思想の過激化につながる。所得格差と同じく現代の難しい問題の1つのようであるが、これを解決できないとさらに厳しい課題に直面する可能性がある。

 

 

Dambisa Moyo(ダンビサ・モヨ)

エコノミスト、1993―95年、世界銀行でコンサルタントとして勤務。2001-08年、ゴールドマン・サックスに勤務。その後、グローバルマクロ経済のエコノミストとして活躍。著書に『援助じゃアフリカは発展しない』『すべての富を中国が独り占めする』『How the West Was Lost』。バークレーズ銀行、SABミラー、バリック・ゴールドの役員も務める。

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