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七十七銀行女川支店 津波訴訟ー命を落とした際の法的責任をどうするか?(渋井哲也)

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もうすぐ東日本大震災から5年。「津波の予見は可能で、安全配慮義務を怠った」として、遺族が企業を相手に争っていた裁判がある。七十七銀行女川支店(宮城県女川町)に勤務していた行員3人の遺族が、銀行側に約2億3000万円の損害賠償を求めていたものだ。一審、二審ともに遺族側の敗訴。そして最高裁でも上告を棄却する決定した。これにより、遺族側の敗訴が確定した。

 

大津波警報が発令され銀行の屋上へ

2011年3月11日14時46分に地震が発生。当時、女川支店には14人の行員らが勤務していた。同55分、支店長が外出先から戻った。このとき、6メートルの大津波警報が発令されていた。そこで支店長は高さ10メートルの2階屋上(一部は3階電気室があり、その屋上は13.35メートル)の避難を指示した。ちなみに、町の指定避難所は、海抜16メートルの堀切山である。当時は町立病院(現在は地域医療センター)があった。

震災当日は金曜日。銀行は15時までは利用者のために店舗を開けているのが通常です。その14分前の地震であった。利用者が支店を訪れるかもしれないと思ったのだろうか。そのため、銀行から高台へという選択肢が浮かばなかったのかもしれない。

派遣スタッフの一人は子どもを心配したために帰宅したが、15時25分ごろ、つまり地震発生から約40分後、20.3メートルほどの津波が銀行の建物を襲い、屋上を超えた。行員13人が流されたが1人だけは生還した。しかし、12人が死亡または行方不明である。

 

災害対応プランは「屋上等への避難」

従業員3人の遺族が銀行を提訴したのが12年9月。町指定避難所の堀切山ではなく、銀行の屋上を選んだのは「安全配慮義務違反にあたる」と主張。一方、銀行側は「屋上の高さを超える津波は予見できなかった」とした。

震災前に想定していた宮城県沖地震による津波の高さは、女川町では5.3メートルから5.9メートル。支店付近は1~2メートルである。あくまでも目安であり、想定とは違った震源の位置や震源の深さの場合は変化する。ただ、支店長が屋上に避難指示をした理由がある。震災前に同銀行が沿岸部にある9つの支店に災害対応プランとして、「屋上等への避難」を策定していたからだ。

 

「支店長の判断は不適切とは言えない」

一審判決(仙台地裁)では、支店長の判断は不適切とは言えない、屋上への緊急避難は合理性があった、として、原告の訴えを認めなかった。控訴審(仙台高裁)では、再発防止につながるという和解案が示された。しかし遺族側が「支店の被災を踏まえていない」との見解を示したことで、和解協議は打ち切られた。そして、控訴審も一審を支持して、「支店屋上までの高さは約10メートルで想定されていた津波から避難できる高さがあった」などと遺族側の敗訴であった。最高裁も憲法違反かどうかを審議する場であることから、上告を棄却。

 

「安全な場所に逃げられる体制を築いてほしい」

20日に仙台弁護士会で遺族は会見を行った。田村健太さん(当時25)をなくした父親の孝行さん(55)は次のように話した。

「(屋上への避難プランでは)結果、命が助かっていない。(銀行の屋上では、それ以上の津波がきた場合)逃げ場がなくなります。それは銀行側の落ち度です。新しい行員に対しては、女川支店のことを伝えて、安全な場所に逃げられる体制を築いてほしい」

指定避難所の堀切山中腹には「鎮魂の花壇」がある。この場所で、田村さんら遺族は休日に女川支店の悲劇を伝えている。当初は、同支店の跡地で訪れる人に説明をしていたが、現在、復興工事のために立ち入りできない。裁判では法的な責任を問うことができなかったが、遺族は今後も企業の安全配慮義務について問う活動をしていくとしている。

 

命を落とした際の法的責任をどうするか?

今回の裁判の論点はいくつもあった。中央防災会議が想定した宮城県沖地震による津波の高さを根拠にしたハザードマップをもとに、企業が従業員の避難誘導するマニュアルを策定するとして、それ以上の高い津波までは想定しなくてよいのか。上司の支持に従って避難した部下が亡くなった場合、損害倍賞の対象になるのかどうか…..。

確定判決ではハザードマップを超える高い津波は「予見できなかった」としている。つまり、実際に起きた地震についても、企業側はその場でハザードマップの想定する地震かどうかを判断しなくてもよいということになる。

また、確定判決の通りであれば、「想定=基準」であり、その基準を満たしていれば、企業の法的責任はない、ということになる。つまり、マニュアル通りに判断した上司が避難指示をした結果、指示通りに避難した従業員が亡くなったとしても、企業の法的責任は問えないということになるだろう。

仮に法的枠組みを今後も変えないのであれば、命を守るのは自己責任で、上司の避難誘導は絶対ではなく、あくまでも参考だ、ということになる。各企業では、首都直下地震や東南海地震を想定した避難訓練を行うと思われる。そんな時に、マニュアル通りに避難できるかどうかだけでなく、命を落とした際の法的責任までアナウンスをすべきではないだろうか。

 

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渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙を経てフリーライター。子ども・若者の生きづらさ、自殺、自傷、依存、虐待の問題を主に取材。教育問題やいじめ、少年犯罪、性犯罪、性の多様性、ひとり親、東日本大震災などもテーマにしている。著書には『自殺を防ぐいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、近著に『復興なんて、してません』(第三書館、共著)などがある。ツイッターIDは@shibutetu

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