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一票の格差─変貌する「是正を求める人々」

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積年の課題

一票の格差がにわかにまた注目を集めている。衆院選挙改革が議論の俎上にあがり、与野党入り乱れて様々な意見が交わされ、本格的な改革の実現が期待できる状況になりつつある。

最新の国勢調査の結果によれば、衆議院選挙の一票の格差は最大で約2.3倍になるとされ、自民党や公明党など、与党においても看過できないという意見が提出されている。更に、最高裁もそのような状況には厳しい態度でのぞんでおり、様々な方面から改革の圧力が高まっていると言えるだろう。

以前の記事(「一票の格差は本当に問題なのだろうか?」)でも触れたが、一票の格差は、単に政治的平等という観点から十派一絡げに論じられる問題ではない。様々な切り口が考えられるが、ここでは、「一票の格差の是正を求める人々」という、少し変わった視点からこの問題を考えたい。

 

得をしているのは誰か?

政治学においても、一票の格差は大きなテーマの一つである。今年の二月に亡くなった、高名な政治学者である京極純一は、その著書『日本の政治』(東京大学出版会、1983年)において、一票の格差を「議員定数の偏り」として論じている。

1983年の京極の著書においても、「最高裁判所による度々の違憲判決にもかかわらず、定数配分の補正について・・・自由民主党は消極であった」と指摘されていることから、この問題がいかに長い間、放置され続けているかが分かる。京極によれば、地方を「過大代表下」におくことが、自民党の長期政権を担保する一つの要因となってきた。つまり、一票の格差が放置されてきたことは、自民党の支持基盤を保持する目的に沿っていたためであるという説明がなされているのである。これは、政治学における一般的な言説だと言っていいだろう。政治学の多くの議論においては、自民党が長い間、政権を担う上で、一票の格差は無くてはならないものであると捉えられてきたと考えられる。

 

変貌する「一票の格差」の是正を求める人々

京極は精緻な計量分析を政治理論に導入した第一人者として知られている。同時に、京極は「リベラルな政治学者」として紹介されることもある。先の引用でも分かるように、概して京極は自民党政治に批判的な面を持っていた。もちろん、それらは精緻な分析や客観性に基づいているものであるが、その記述は自民党を「地元面倒省」と揶揄するなど、自民党の土着性を問題視する姿勢が伴っていた(京極『日本人と政治』、東京大学出版会、1986年)。

では、一票の格差を批判する論者は、今日に至るまでリベラルな人々によって占められているのであろうか。実は、そのような構図が変貌しつつあるのである。

特定非営利活動法人である、「一人一票実現国民会議」という団体がある。この団体は、2009年に設立され、2011年にNPOとなった組織であり、啓発活動を中心に、様々な運動を行っている組織である。注目すべきは、その発起人である。そこには、ジャーナリストの櫻井よし子氏や屋山太郎氏、作曲家のすぎやまこういち氏など、安倍政権、ひいては自民党に好意的な人々が並んでいる。一票の格差の是正を求める運動は、今日では自民党政治に肯定的な人々にも広がっていることがここから分かるだろう。

 

自民党の構造変化と一票の格差

このような事態は、自民党の支持基盤の変容が原因の一つとして考えられる。かつて自民党は農村部を中心に支持を広げており、それに対する社会党が都市部に支持基盤があると言われてきた。

しかし、このような構図はもはや今日では通用しない。自民党は着実に都市部にも基盤を築きつつある。もちろん、今でも農村部を中心に強靭な基盤を持っている議員もいるだろうが、都市部においても基盤を持つ議員が増えてきていることは確実であろう。

これらを踏まえると、自民党がもはや一票の格差をもとに長期政権を維持し続けていくというストーリーが成り立たないことが分かる。むしろ自民党にとっては、一票の格差を是正した方が得する場合もありうるのである。上述した「一人一票実現国民会議」に名を連ねる人々が、安倍政権に好意的な論者で占められていることは、決して偶然ではない。自民党の支持基盤の変容が、一票の格差をめぐる議論にも影響を及ぼしているのである。

 

一票の格差をどう考えるか

一票の格差は、様々な論点を含んだ複雑な課題である。精緻な計量、統計的分析に基づいて、より平等な選挙制度をつくることは、恐らく可能であろう。しかし、前の記事にも書かれてあるように、問題はそれだけではなく、より広く、深いところにある。

要するにこの課題は、「誰が、誰を、どのようなかたちで代表とするとき、我々は代表の決定に納得できるのか」という、民主政治の根本に関わる問題と密接に関係しているのである。ある党がその制度で得をしているように見えるとき、その党に批判的な人々はその制度を批判する。逆に、ある党が損をしているように感じられるなら、その党に肯定的な人々がその制度を改革するよう求めるのである。一票の格差は、自民党の支持基盤の変容とともに、議論される文脈が大きく変遷してきたイシューだと言っていい。

選挙制度の新たな改革の必要性は多くの論者で一致している。しかし、そこには純粋に誰もが納得できる議論のみが存在しているわけではない。歴史的な経緯を踏まえた上で、どのような民主主義が好ましいかという議論を抜きにして、この課題を解決することは難しいのではないだろうか。

 

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