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ロシアはなぜシリアから撤退したのか?

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ロシアがシリアから空軍の撤退を開始したのは既に報じた通りだが、ではなぜプーチン大統領は撤退を決めたのだろうか。今回の撤退の理由として「当初の目標をすべて達成した」からだと報じられているが、その真意を探ってみたい。

 

当初の目的はアサド政権の立て直し

昨年9月30日、プーチン大統領はシリア政府からの要請を受け、シリア領内でISに対する空爆を開始すると発表した。この時、シリアのアサド政権は反政府軍やISなどのテロ組織に追い込まれ、崩壊に瀕していた。しかし、プーチン大統領はシリアのテロ組織との戦いにはアサド大統領の存在は欠かせないと一貫して主張し、軍事介入を決めた。

だが、実際にロシア軍が攻撃したのは、ISのみならず、反政府軍、また民間人であった。結果的には、アサド政権は息を吹き返し、反体制派から占領地の一部を奪還。米国防総省は2月27日のシリア停戦協定発効と同時にロシアによる空爆がISに集中するようになったと発表している。こうした状況を踏まえると、今回のロシア撤退は当面アサド政権が存続することを確信したためだと考えるのが妥当だ。さらに言えば、このまま軍事的にアサド政権をサポートし続ければ、アサド大統領が再び独裁的になり、和平協議に悪影響を及ぼすと考えた可能性もある。

一部基地を残したままなのは再びアサド政権が劣勢にならないよう念のためといったところだろう。残った空軍に加え、アサド政権軍の軍事顧問などとしてロシア軍人約1000人が残留すると見られている。

 

もう一つの目的は和平プロセスで主導権の確保

ロシアがシリアに軍事介入したもう一つの目的は国際社会への復帰であった。ウクライナに介入して以降、欧米から制裁を受け、孤立を深めていたロシアは、昨年からの対テロ空爆、アサド政権と反政府軍の和平協議において存在感を発揮し、発言力を強めている。

プーチン大統領は14日、ラブロフ外相にシリア和平協議への参画を強化するよう指示し、「撤収決定が全ての紛争当事者にとって良いシグナルとなることを願う」と言及した。

現在和平協議が難航している理由の一つに、来年9月までに大統領選を行うか否かで合意が取れていない点がある。国連が実施を議題に盛り込み、ロシアとアメリカも同意しているが、アサド政権は反対している。ロシアの撤退は、アサド大統領への圧力でもある。ロシアはアサド大統領の継続には固執しておらず、ロシアの権益を確保できればいいというのが本音だ。現時点でも既に国際舞台に戻ることに成功しているが、ここで和平合意が結ばれれば、ロシアは今後も中東で影響力を発揮することになるだろう。その意味でも今回の撤退は絶好のタイミングだ。実際、米ケリー国務長官がシリア和平実現のために最も良い状況にあると発言している。

また、今回長期にわたって空爆を続けられたことでロシアへの軍事的評価が高まっているという声もある。

しかし、今回の和平協議がうまく進まなければ、反体制派が再び勢力を強め、泥沼化する可能性もある。仮にロシアが再び空軍を戻すことになれば、経済的に苦しいロシアにとっても大きな痛手となるだろう。1日当たりかかる戦費は250万〜400万ドル(2億7000万円〜4億4000万円)とされる。

 

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