日本 社会

「女性に対する人権侵害」はAV業界の体質なのか、会社の問題なのか(渋井哲也)

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NPO法人ヒューマンライツ・ナウは、「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す女性・少女に対する人権侵害調査報告書」を作成し、公表した。15年5月から被害実態や関係法令、判例などを調べた。報告書によると、「タレントにならない?」「モデルにならない?」などとスカウトされ、アダルトビデオ(AV)に出演を強要された例などをあげ、監督官庁の設置を求めたり、包括的な法整備を求めている。

報告書によると、PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)に寄せられたポルノ被害に関する相談件数は2012年から15年9月までに93件。このうち、AVに絡んだ相談は72件。「だまされて出演」21件、「出演強要」13件、「出演拒否で違約金請求」12件、「知人に出演を知られた」9件、「出演発覚が怖い」7件など。

 

自殺に追い込まれたケースも

また報告書では、分析ができた10のケースを公表した。

15年9月、出演を拒んだことでプロダクションから違約金を請求される訴訟までに発展したケースがあった。高校生のときに「タレントにならないか?」とスカウトされ、未成年のうちに契約、所属した。契約書は渡されていない。当初は「着エロ」の仕事だったが、想像したグラビアモデルの仕事と違っていた。

しかし違約金が支払えず、結果として、AV作品1本に出演した。ただ、あと9本出演しないと「契約違反」となり、違約金を支払わないといけない。この女性は支払うことができず、「死にたい」と思うようになり、連絡をしてきた。契約解除を申し出ると、プロダクションが訴訟を起こした。判決は、プロダクションの敗訴となった。

 

また、20歳のときに知人から「グラビアモデル」の事務所に紹介すると言われ、面接を経て、専属モデルとなったが、AV作品かわからずに出演することになる。拒否すると、違約金は発生すると言われて、応じてしまう。その後も拒み続けるが、「違約金が支払えないなら親に請求する」などといい、出演を強要した。

その後も撮影は続き、一日12リットル以上の水を飲まされたり、避妊具なしで、複数人の精液を無理やり膣内に注入された。無修正の動画への出演も強要された。終いには性感染症や膣炎、ウイルス性胃腸炎、円形脱毛症、うつ病、男性恐怖症となっていく。

 

自殺に追い込まれたケースもあったという。スカウトマンは複数人で取り囲んで、出演の承諾を得る。断れなかった女性はAV出演をするが、後悔し、2本目も決まっていると告げられ、仕方がなしに出演した。辞めたがっていたのを知っていたスカウト会社は半年の間に複数の作品に出演させ、販売した。スカウト会社との契約は解除ができたが、作品は販売され続けた。支援団体に相談し、弁護士に販売停止交渉を依頼する決意をしたが、依頼前に、自殺した。

 

どこのプロダクションが多いのかは把握していない

こうした被害実態は、AV業界の体質なのか、それとも特定のプロダクションに起きているかーー。筆者はその旨を質問した。同NGOからは無回答だった。実際に相談にあたった支援団体としては、AVに絡んだ相談72件、さらに実際にケースを公表した10件ともに、どこのプロダクションが多いのかは把握していない。理由として「契約書を女性が持っていないケースもあるため」ともしている。

 

居酒屋チェーンでブラック企業問題がクローズアップされたが、居酒屋チェーン全体がブラックとは言えない。どんな業界でもブラック企業はあるが、その業界全体が悪とは言い切れない。そのため、今回のアダルトビデオ産業の問題も、ブラック企業が存在するということは言える。しかし産業全体が悪だとは言えない。

たしかに、現行法でも対処可能なのではないかと思える。しかし、報告書によると、売春防止法では今回の調査では検挙された例はない、という。AV出演の報酬の対象は「性交」なのか、「演技」なのか。また「不特定」とは言えないとの解釈上の問題がある。

また、多くの場合、撮影は密室で行われ、女優の同意がある前提で撮影がされる。前提がないことを立証するのは難しい。販売規制の面でも、モザイク処理されていれば、「わいせつ図画販売」などで検挙できない。

 

労働派遣法や職業安定法では、AV出演は「公衆道徳上有害な業務」とされているため、募集や派遣は処罰対象となっている。そのため、プロダクションは、女優との契約は雇用契約をしない。モデル契約、業務委託契約などにしている。

出演拒否といっても、AVそのものを拒否なのか、特定のジャンルを拒否したのか。相談内容のカテゴリ分類が大雑把するぎる。筆者が知るケースでは、どんなジャンルでも出演可能な契約をしたが、特定のジャンルを嫌がって、違約金を請求されたということがある。関係者によると、こうした違約金は、場所代やカメラマン代、男優の日当などにあてるという。

 

また、別ケースとしてこんなケースもある。

グラビアアイドルとして契約したが、のちの仕事として10本が提示された。そのうち1本がAV出演だった。この1本を拒否することができるが、拒否すれば、10本すべての仕事がなくなる、というものだった。報酬は拒否しても、しなくても同じ。そのグラビアアイドルは結局、AV出演を選んだ。脅迫はない。その結果、人気女優となった。ただし、母親にばれたことで女優を辞めた。

 

業界内から疑問も

報告書の件が報道されてから、業界内からも疑問が出されている。弁護士ドットコムでは、現役女優かさいあみさんにインタビューしている。

――本当に、無理やり出演させられるようなことはないのでしょうか?

昔はそういうこともあったかもしれませんが、今はこの業界のルールも本当に厳しいです。契約から撮影するまで、いくつもの段階を踏まないといけません。

たとえば、きちんと契約書を交わさないとプロダクションに所属できません。そのためには、年齢確認のための身分証が必要だったり、今年からはマイナンバーも提出しないといけなくなりました。

プロダクションの面接でも、チェックシートが用意されていて、「●●はできない」とか「●●はできます」といったことを自分で決めることができます。

筆者もAV業界には監督、女優、スタッフともに知り合いがいるが、かさいあみさんの認識と近いものがある。とはいっても、公表されたケースのように、悪徳な業者もゼロではないのだろう。

公表された10ケースは氷山の一角かもしれない。であるならば、包括的な法規制が必要な部分も出てくる。特に、撮影過程で、AVと明示しないことや脅迫、暴力、虐待があれば、それ自体処罰対象になったり、その作品の流通を止めることができるようにするのは、筆者も同意したいところだ。また、AV出演するとして、あらかじめ、どんな種類の作品ならよいのかを意思表示させるべきだろう。

(photo:ヒューマンライツ・ナウ)

 

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渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙を経てフリーライター。子ども・若者の生きづらさ、自殺、自傷、依存、虐待の問題を主に取材。教育問題やいじめ、少年犯罪、性犯罪、性の多様性、ひとり親、東日本大震災などもテーマにしている。著書には『自殺を防ぐいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、近著に『復興なんて、してません』(第三書館、共著)などがある。ツイッターIDは@shibutetu

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