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自民党供託金の減額検討、現状の供託金は適正か?

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自民党青年局が党に対して行った提言が、3月12日発表された。「社会保障」「教育」「若い世代の政治参加」の3本の柱の中で、「若い世代の政治参加」では被選挙年齢の引き下げや投票をしやすくする仕組みに加え、「国政選挙における供託金の引き下げ」も提言されている。

また、20日には、参院選公約に「被選挙権年齢引き下げの検討」、「供託金の減額検討」を掲げる方向だと党幹部が明らかにした。

国政選挙や知事選挙の際にたびたび話題に出される供託金とは、どのようなものだろうか。

 

供託金とは

選挙における供託金とは、立候補時に法務省などの「供託所」に定められた金額を預ける(供託)お金のことであり、公職選挙法92条・93条で定められている。一定の票数を獲得することができれば返却されるが、そうでない場合や立候補を途中で取りやめた場合は没収される。

日本の各種選挙における供託金の金額とその没収点は表のとおりである。

供託金
公職選挙法より筆者作成

 

なぜ供託金制度があるのか

1925年の普通選挙法の施行により納税要件が撤廃され、満25歳以上の日本国籍を持つ男子全てに選挙権が与えられるようになった。その一方で供託金制度が導入され、立候補時に国政選挙で2千円を収めることが義務付けられた。当時の東京の公立小学校教員の年収の約3~4倍の水準である。

イギリスの制度を参考に、売名目的の立候補者や泡沫候補を防ぐ目的で導入されたとされるが、社会主義政党の伸長を防ぐためとも言われる。

敗戦後、日本国憲法に変わり、1950年に公職選挙法が制定された後も供託金制度は残された。衆院選の選挙区における供託金の額は1950年で3万円、その後一貫して上がり続け、1969年に30万円、1992年に300万円となる。一方で1955年から1992年の消費者物価の伸びは約6倍だった。

 

世界的に見て高額な日本の供託金

会社員の平均年収が約400万円の現在、国政選挙(小選挙区)の供託金300万円というのは一般的には高いハードルと言えそうだが、諸外国はどうなっているのだろうか。

国立国会図書館の調査(2007年)では、主な外国の供託金及び没収点は以下の様になっている。

 

◆供託金あり(国名/金額(レートは2016年3月18日現在)/没収点等

  • イギリス(下院)/£500(約8万円)/小選挙区制で5%未満
  • カナダ/$1,000(約8万5千円)/原則として全額返還
  • 韓国/1500万ウオン(約150万円)/小選挙区制は10%未満で全額、10~15%未満で半額没収

◆供託金なし

アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアなど

 

主要国のうち供託金がそもそもない国があるほか、ある国でも日本よりもかなり金額が低く、没収点の条件も厳しくない国が多い。国際的には日本の選挙供託金はかなり特異な水準であるうえに、返却されにくいものであることが分かる。

 

供託金をめぐる議論

日本の選挙供託金制度をめぐっては、金額が高すぎるのではないか、憲法違反ではないか、といった疑問が投げかけられている。

疑問1:高額すぎるのではないか?

上記の様に、国際的に見ても日本の供託金は高額であり、金額を下げるべきという意見もある。しかし、金額を下げることで、売名目的の立候補者が増えるのではないか、という指摘がされている。

金額を下げる程度にもよるが、立候補への金銭的ハードルが下がるので、今よりも立候補者が増えることは十分予想される。だが、それが「問題のある程度まで」増えるという推測を裏付ける具体的な根拠は示されてはいないようである。日本よりも供託金が大幅に低い諸外国では、立候補者が多すぎることで供託金の引き上げには至っていないことから、金額を引き下げることが、すぐに有権者が立候補者を選びにくくなるような事態につながるとは考えにくい。

これに関連して、そもそも立候補者が売名目的かどうかを見分ける客観的な基準はなく、選挙活動を通じての立候補者の態度から、有権者それぞれが判断することになる。つまり立候補時点では売名目的かどうか分からない。結果として高額な供託金は立候補者の立候補目的を問わず、一律に資金力の乏しい立候補者(特に無所属・新人の立候補者)を排除しやすい制度となっている。

 

疑問2:そもそも憲法違反ではないか?

選挙供託金を巡っては、公務員の選挙を「国民固有の権利」と定める憲法第15条や、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない」とする憲法第44条に違反しているとの批判があり、過去にいくつも裁判が起こされている。

判決はいずれも「供託金は違憲である」との訴えは退けられる形になっている。その理由は個別の訴えによって様々であるが、代表的なものとしては、憲法第47条で選挙の詳細は法律(公職選挙法)で定められることとなっており、国会で妥当と判断された内容であること、また供託金の方法やその金額も、合理的であると判断されている(平成8年神戸地裁、平成9年大阪高裁など)。

 

代替案はあるのか

選挙供託金は「売名目的の立候補や泡沫候補を抑制する」目的で設定されている。現在の供託金制度以外に、その目的を達成する方法は無いのだろうか。

既に行われている事例として、自民党や旧民主党の代表選で行われているように、立候補する際に一定の数の「推薦人」を事前に集めることを立候補の条件とする方法がある。政党内の選挙と一般の選挙では規模も対象も異なるが、選挙では数を集めなければ当選できないため、事前に推薦人を集めることは、一般の選挙でも原理的には供託金の代替方法として検討しうる。さらに、まじめに選挙活動を行う意思のある者に対しても立候補の足かせになりうる供託金よりも、妥当な方法であると言えるかもしれない。

また、一般に所得の低い若年層ほど、立候補に際しては供託金の金額の影響を受けやすいと考えられる。加えて、他の先進諸国と比較して、日本は若者や女性の議員数がかなり少ないことがかねてより指摘されている。そのような対策として、世代や性別で供託金に差をつける案も出ている。

 

上記のように論争が起きてきた供託金であるが、供託金を設定すること自体の是非の検討や、代替的な手法の導入にはまだ時間がかかると思われるが、金額の引き下げは政治の意思で比較的早く取り組むことができる方法として、議論の余地があるだろう。現に2008年には供託金の額を現在の半額にする案が自民党より出されているが、その際は廃案になっている。

供託金引き下げのインパクトは、相対的に所得の低い若年層で大きい。選挙権年齢が引き下げられることになったものの、若い世代の意見をより政治に反映するには、被選挙権の行使もしやすくする必要がある。その意味で、供託金引き下げは若い世代がより政治へ近づく道を開く一助となろう。

 

なお、冒頭の自民党青年局の提言では、『政治的に独立した「世代間公平委員会」の設置の検討を含め、給付と負担に関する「見える化」を更に推進する』など、世代間の不公平感に配慮した政策も打ち出している。供託金引き下げの提案と合わせ、政治の側も社会的公正・公平へとより踏み込んでいくという姿勢の変化の表れであるかもしれない。

 

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