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報道の自由はなぜビジネスにとっても重要かールーシー P.マーカス

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「World press freedom index 2015」によれば、世界中の民主主義にとって欠かせない要素である報道の自由と独立性は、驚くほどのペースで衰えている。しかし自由で独立した報道機関が提供する透明性と警戒は、民主主義のためだけでなく、経済発展を阻害する、汚職や劣悪なビジネスに対抗する強力な武器となる極めて重要なものである。簡単に言えば、質の高いジャーナリズムなくしては、より健全で力強い経済は実現し得ないということだ。

(関連記事:どうすれば汚職をなくせるか?

 

権威主義者とビジネスモデルによるジャーナリズムの劣化

権威主義者によるものか、存続不能なビジネスモデルの結果によるものかは別として、報道機関にとって脅威となる事例が日々発生し、報道機関はますます厳しい現状に直面している。私たちが調査報道や、経済トレンドと企業活動の分析を今まで以上に必要とする時代に、それらを配信する能力は急速に低下している。

 

調査報道にお金を割けない

問題の一つとして、印刷広告が衰退する中で、メディア企業は長期間にわたる徹底的なレポートを必要とする調査報道にお金を出すことがより困難になってきている。しかし、今後数年にわたり政治的アジェンダや大衆の生活に影響するような問題を特定し、それを浮き彫りにすることで、そのような報道が与えるインパクトは巨大なものになり得る。

例えば、ロイターがスターバックスの租税回避スキームについて数カ月に及ぶ綿密な調査を行った2012年の報道を考えてみよう。ジャーナリスト、トム・バーギン氏は数年に及ぶ複雑な文書の分析により、スターバックスが、営業する国々で租税を回避する方法の一部始終をつきとめ、それを公表し、説明した。今では、他の多くの多国籍企業が徹底的調査を受けており、彼の調査が世界中に反響し続ける雪崩の引き金となっている。しかしそのような調査は安いものではない。

 

政治的抑圧

しかし、この重要な公共財の供給を確実にするための資金調達モデルは、政治的抑圧に直面して全く機能しておらず、このような抑圧は世界中で増加している。例えば、3月初めにトルコ大統領レジェップ・タイイップ・エルドアン政権は、その国で最も発行部数の多い新聞、ザマンを閉鎖し、治安部隊は催涙ガスとゴム弾を、その新聞社本社の外にいた反抗者たちに向けて放った(関連記事:トルコ、反政権紙を政府管理下にー欧米諸国は批判)。

ドイツ首相アンゲラ・メルケル、イタリア首相マッテオ・レンツィ、フランス大統領フランソワ・オランドを含むヨーロッパのリーダーたちは皆、ザマン事件を、難民危機について討議するためにトルコ首相アフメト・ダウトオールと会談する際の議題の一部とした。世界のリーダーたちは声を上げ続けなければいけない。 そして自国における報道の自由を頑なに支持しなければいけない。結局、そのような公的機関のふるまいが発信するシグナルとは、国の後退であり、イノベーションと成長を阻害する要因でもある。

 

自分が完全に理解できない経済・事業環境で経営を行うことのリスク

中国は、今や世界第2位の経済大国でありグローバルな製造と投資に不可欠な存在だが、報道の自由と経済発展のあらゆる関係について偽って伝えてきたようだ。しかし一方で、去年の夏に始まった金融ボラティリティー急上昇から得られる根本的な教訓は、国に統制される情報はたいていが悪い情報だということだ。投資家たちは、自分が完全に理解できない経済・事業環境で経営を行うことのリスクを理解し始めたようだ。

中国のメディア組織は常に権力による厳しい監視下に置かれ、編集者たちは以前から検閲にいらだっている(また、反抗を試みることさえあった)。直近では、South China Morning Post’sの中国語版が、そのソーシャルメディアアカウントをブロックされた。BBCからロイターまで、多くの外国ニュースウェブサイトは中国読者により定期的にブロックされている。2012年、NewYork Timesのウェブサイトは、当時の首相、温家宝一族が少なくとも27億ドル相当の資産を蓄えていたと報道した後、中国でブロックされた。

同様に、外国メディア組織は、中国企業や経済活動を自由に正確に調査 できないことが多い。 北京のL’Obs(正式にはル・ヌーベル・オブセルバトー)担当記者ウルスラ・ゴーティエは2015年に、当局が彼女のビザ更新を拒否した後、中国から退去させられた。だが、このようなやり方で「無力化された」のは彼女一人だけということでは全くない。

 

アメリカでさえ危険な兆候

また、然るべき注目を十分に集めていない国々もある。「World press freedom index」における、タックス・ヘイブンのアンドラ(スペインとフランスの間にある国)のランキングは2015年に急激に下落した。それは、ジャーナリストたちがそこで営業する銀行の情報へのアクセスを簡単に確保できないからだ。その国は「ジャーナリストの情報源の秘匿性といった情報の自由に関するあらゆる法的保護の欠如」という評価に苦しんでいる。また、アメリカ財務省によるアンドラ・プライベートバンクへの資金洗浄捜査のような、アンドラの銀行が受ける報道の少なさは、以前から戸惑うほどのものであった。

報道の自由が制限されている、または脅威にさらされている国のリストには、アフリカから中東、ロシア、そしてその他旧ソ連の共和国が名を連ねる。アメリカでさえ危険な兆候がでている。共和党の大統領候補者選びの先頭を走るドナルド・トランプが辛辣な言葉を投げかけ、そして異論があるにせよ、選挙運動集会の中でジャーナリストに対して、暴動を扇動している。注意が必要なこととしては、トランプは、もし大統領に選ばれたら、米国憲法修正第一条に祀られている言論の自由の原則を改訂すると言っている(関連記事:過激な発言が目立つトランプ、実際は何をしようとしているのか?)。

 

活動的で、仕事に専念し、独立した報道は公共の利益の基礎を提供する。それは即ち、政治的、経済的説明を可能とする透明性である。ますます複雑化し専門化する世界で、それを提供することが支持、保護され、促進されなければいけない。そして、メディアは価値のある報道、調査、分析に資金を提供する方法を見つけなければいけない。だが残念ながら、あまりにも多くの国々が困難な状況になってしまうかもしれない。

 

Lucy P. Marcus(ルーシー P.マーカス)

マーカスベンチャーコンサルタントCEO

国内独占掲載:© Project Syndicate

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