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欧州・中東・アフリカで続発する国家非常事態宣言<世界を震撼させるISテロ> ー 福富満久

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世界がテロに揺さぶられている。11月13日フランス・パリで起きた同時多発テロによる犠牲者は130人に上り、350人以上が負傷するというフランス近代史上、未曽有の大惨事となった。欧州内で他にもテロが計画されていた模様だが、20日、西アフリカのマリの首都バマコでも外資系ホテルがISを名乗る組織に襲撃され、24日にはエジプトでホテルを狙った自爆テロにより7名が死亡、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派である「ISシナイ州」が犯行声明を出した。チュニジアの首都チュニスでも同日、大統領警護隊隊員を乗せたバス内でテロがあり、15人が死亡した。同事件でもISが犯行を認めた。ISによるテロにより非常事態を宣言をした国がこれでフランス、マリに続きチュニジアで3ヵ国目となった。果たして国際社会はISを制圧することができるだろうか。ISの真の意図は何か。

米国、ロシア、フランスは現在ISを空爆しているが、そもそもISがここまで勢力を拡大できたのは、国際社会がシリア問題の解決を棚上げしてきたことに起因する。ではなぜシリアはこれまで介入されなかったのだろうか。

アサド政権への制裁決議案に対して、国連安全保障理事会は、これまでロシアと中国が拒否権を発動し4度否決としている。ロシアと中国がシリアの介入に反対に回ってきたのは、ロシアにとってシリアは、軍事戦略上重要拠点であるからである。ロシアは港湾都市タルトゥースを地中海唯一のロシア艦隊の補給基地として長年維持してきた。また、ロシアにとって同国は重要な武器輸出国であった。

中国の反対は、「内政不干渉の原則」という問題が自国の内政と密接に絡んでいる問題だからである。民主化要求・分離独立問題は中国にとって国家の根幹に関わる一大事項である。民主化要求を認めれば、国内外の分離独立派を活気づかせる契機となる。両国の利権と思惑がこのように交錯し度重なる拒否権行使へと結びついた。

こうした要因以外にも、シリアでは、介入しても政権の受け皿が組織されなかったこと、仮に介入しても長年アサド家に仕えてきた古参の参謀や元軍将校が政府機関、国営企業の要職を実効支配していて、再び台頭する可能性があること、そしてこれが決定的な点だが、シリアには石油資源はなく、介入したところでどの国にとっても国益に資するものはなかったことが挙げられる。また、地政学的にもシリアは北にトルコ、東にイラク、南にヨルダン、西にレバノン、南西にイスラエルと国境を接し、これらはすべて米国の戦略上の友好国であり、米国及びNATO(北大西洋条約機構)加盟国にも、ここにアフガニスタンのような「権力の空白地帯」が再び生まれることは避けたいとの思惑があったといえる。

しかしながら、こうした対応がISの伸張を許すことになってしまった。国連は2001年「干渉と国家主権に関する国際委員会」で①国家主権とは、責任を意味し、国民を保護する主要な責任はその国家自体にある。②人々が内戦、暴動、抑圧あるいは国家破綻の結果として甚大な迫害を受け、かつ問題の国家がその迫害をやめさせる意思・能力がない場合、保護する国際的責任が内政不干渉に優先する――とした「保護する責任」を確認したのではなかったか。

軍事介入を行うには最低3つの条件を満たす必要がある。①甚だしい人権侵害が起きている②周辺地域の安定・安全を確保する③平和的解決手段がついえている――の3条件である。シリア問題ではこのすべてが満たされていた。アサド政権による化学兵器使用が疑われた時にも国際社会は見て見ぬふりをした。それにもかかわらず趨勢を見守った国際社会の責任は重い。

テロとの闘いは新局面を迎えている。ISは、米国、ロシア、フランスの軍事介入を受け、シリア戦線で極めて劣性に立たされている。8月にパリに向かうTGVで無差別テロが未然に防がれた以外にもフランス内務省はテロを未然に防いでいたことを明らかにしている。英国、ドイツ、ベルギー、トルコでも当局がテロを未然に防いでいたと発表している。10月にエジプト・シナイ半島で起きたロシア機旅客機の墜落についてISは犯行声明を出し、パリ同時テロ事件以降も、ISとその関連の組織がマリ、エジプト、チュニジアでテロを実行しているが、ISは、今後も国際テロを実行していくとみられる。

人類は、国境なきテロに対してより明確な答えを用意する必要がある。オバマ米大統領とオランド仏大統領は、25日ホワイトハウスで会談し、米国とフランスは同組織の壊滅を目指して共同歩調を取っていくことを発表したが、米国やフランスは、アラブ諸国のみならず、国際社会と連携し、対応するべきだろう。国連は無差別テロなど人道に対する罪を行使する団体あるいは国家に対しては拒否権発動の制限を常任理事国に課すなど国連改革も急がれる。

ISは「拠点」を意味するアルカイダと異なり、「国家」の樹立を目指している。その意味で国家に寄生してテロ活動を行ってきたアルカイダと異なり、「首都」や「軍施設」を有するISに対する空爆作戦はある一定の成果を見込むことができる。一方、ISはその支配領域に米欧諸国の地上部隊を引き込むことを望んでいる。泥沼の地上戦を展開し事実上の撤退に追い込むことで勝利を得る算段である。だが、その手に乗ってはならない。国家の承認は、主権、国民、領土の三要件がそろい、国際社会が認めるかどうかによって決まる。その意味であくまでもISはテロ組織であり、空からの制圧作戦を進めていくべきだ。

ISはまたアルカイダと同様、西洋近代社会の発展に立脚した科学技術を否定するその思想とは裏腹に最新のインターネット技術を駆使し、ネットワークを広げてきた。そこでは常にプロパガンダを流したり、各国政府の情報網をハッキングしたりして情報戦を挑んでいる。テロリストを把握する上でこうした動きに対しても国際社会で密接に情報交換して対応していくべきであろう。

シリア、イラクと国境を接する国と協力して麻薬取引や石油取引による資金調達を阻止することも重要だ。ISは構成員に麻薬を配給し、幻覚を起こさせて戦闘させているともいわれており、武器流入と合わせて国際社会で監視を強化する必要があろう。米国財務省はイランに対する経済制裁でイラン包括制裁法(CISADA)を制定して革命防衛隊関連企業の国際決済を監視したり、取引を中止させてきた。これは全てのドル決済は、米銀内のコルレス口座を経由して行われるため、ドル決済を全世界において不可能とするものである。こうした法案制定もテロ活動を制する一助となるだろう。

ロシアはアサド政権に協力し、テロ組織の撲滅を目指しているが、ISが出現した根源は、アサド政権がスンニ派を徹底的に弾圧したからである。暴力に対する暴力の行使は抜本的な解決策にならないとして軍事介入に異議を唱えるむきもあるが、そもそも暴力を野放しにした事実に立ち返ってシリア問題の本質を考える必要があろう。

 

国内移民とのさらなる融和を

欧州には北アフリカから来たアラブ系移民が2世・3世を含むと350万人以上、イスラム教徒は全体で480万人以上が生活しているとされており、トルコ系移民が数多く住み、フランスに匹敵するイスラム教徒500万人以上を抱えるドイツや、パキスタン系移民を中心に270万人が住む英国もイスラム教徒である移民との融和が政治的課題である。これらの国は移民の保護を一層強化していくほかない。行政面・福祉面・社会面での手厚い保護がテロを未然に防ぐことにもつながっていくはずだ。

実際に、難民庇護申請者の受け入れにおいて、14年実績で、ドイツは11,000人を、英国は9,500人を、フランスは9,000人を認定しており、これらの国は積極的平和主義に一定程度貢献してきた。今回のテロを機に、EUへの入域審査強化や、域内の国境審査の厳格化を求める声も出ているが、ISの目的は、テロにより自由と平等、信頼という欧州の精神を内部崩壊させ、恐怖社会にするのが狙いであり、欧米が憎悪を募らせ寛容の精神を失えば、それこそISに屈したことになる。

難民は、日本も他人事ではない。万一北朝鮮が破綻したり、韓国と戦争のような事態になれば、大量の難民が発生し、庇護を求めてくる可能性もある。その時に人道的な対処をできるように準備することが必要だ。

 

福富満久(ふくとみ・みつひさ)

一橋大学大学院社会学研究科教授(国際政治学・国際関係論)。Ph.D. 国際関係学(パリ政治学院)、博士 政治学(早稲田大学)。主要著書に、『中東・北アフリカの体制崩壊と民主化―MENA市民革命のゆくえ』(岩波書店2011年)、『国際平和論』【岩波テキストブックス】(岩波書店2014年)、『Gゼロ時代のエネルギー地政学―シェール革命と米国の新秩序構想』(岩波書店 2015年)など。

 

(photo:wikipedia)

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