日本 経済

【4月5日の国会】TPP法案が審議入り。何が話された?

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/
Pocket

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の承認案と関連法案が、昨日の衆議院本会議で審議入りした。農業や医療をはじめとする幅広い分野への影響が議論されてきたが、昨日の本会議では何が論点となったのだろうか。本会議では、5名の議員から質疑があったが、本記事では、野党第一党である民進党所属であり、「政治とカネ」の問題でも注目を浴びている山尾志桜里議員の質疑と、それに対する答弁の内容を中心に見ていきたい。

 

TPPはGDPを14兆円押し上げる

まず、TPPの意義に関しては、自民党の吉川元農林水産副大臣が質疑を行い、「12か国で合意し署名したTPPは、わが国やアジア太平洋地域にとって、どのような意義があるのか」と質問。安倍総理は「TPPは、8億人の市場と世界の4割の経済圏を生み出し、GDPを14兆円押し上げる効果が持続する。国内の人口減少を乗り越えて日本経済が中長期的に力強く成長していく基礎となる」と述べた。さらに、安倍総理は「日本の農産物に新たな巨大市場をもたらし、農業者がブランド化などで国際競争力をつけ、海外に販路を開拓する絶好のチャンスだ。今後、このようなメリットを生かして、TPPを、わが国の成長戦略の切り札としていく」と、TPPを早期に発効させる意義を強調した。

 

そして山尾議員の質疑では自民党の政権公約や聖域、国内の農産物生産量の減少等について質問が行われた。以下は、山尾議員の質疑と答弁の全文。

 

政権公約の嘘に国民は怒っている

民進党・山尾議員:

民進党・無所属クラブの山尾志桜里です。私は、民進党・無所属クラブを代表し、ただいま議題となりました、環太平洋パートナーシップ協定および環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案について、質問を致します。

 

さて、昨年10月、交渉参加以来2年を経て、TPP協定交渉が合意に至りました。私たち民進党は、綱領にも定めた通り、持続可能な経済成長を重視する立場です。したがって、TPPを含む高いレベルの経済連携を進めていくことは、日本の成長をさらに推し進めるため、必要な枠組みであることは否定致しません。しかし問題は中身。何が守られ、何を勝ち取ったか、ということであります。合意以来、私たちは全国各地に足を運び、生産者・消費者の方々と膝を交え、将来に向けた生産の継続、地域の維持、食の安全・安心、国民皆保険制度の堅持などについて、国民の不安の声を、直接お聞きして参りました。そしてもう一つ、国民の皆さんからお聞きした声があります。それは、怒りです。この怒りに対し、何よりまず、しっかり、総理がご自身の言葉でお答えをいただきたいと思います。

聖域なき関税撤廃を前提とするTPP協定参加には反対。これは自民党の皆さんの、2012年衆議院総選挙における政権公約です。そしてこの政権公約に基づき、嘘つかない、TPP断固反対、ぶれない、TPPへの交渉参加に反対と、大きく書かれたポスターが農村部を中心に、全国各地に貼られました。総理、はっきり申し上げます。これは、嘘です。この嘘にこそ、国民の皆さんが、怒っているのです。アベノミクス、集団的自衛権、一億総活躍社会。私たちはその都度、総理の説明する嘘に、国民の皆さんとともに怒り、追求をしてきました。そしてこれから、審議を行おうとするTPPも残念ながらまた、嘘を追求しなければなりません。総理、今からでも遅くありません。国民に真摯に向き合ってください。総選挙での約束を守らなかったことを認め、その理由を説明してください。国民との対話は、そこからスタートするはずです。国民の皆さんへの、総理の真摯な説明を求めます。

 

甘利前大臣から石原大臣への引き継ぎは電話で20分

さて、TPPを議論するにあたり、その交渉の中心人物たる、甘利前大臣がこの場にいらっしゃらないことは、極めて残念でなりません。加えて、事務方トップを担ってきた、鶴岡首席交渉官まで、なんと審議入りをした今日、駐英大使への転出が、閣議決定されました。政府としては、丁寧に説明を尽くしていく。そのようにおっしゃいますが、どこにその姿勢が見えるのでしょうか。これまで民進党が行ってきたヒアリングでも、甘利前大臣から石原大臣への引き継ぎメモは作成されず、引き継ぎ自体も、たかだか電話で20分。TPP協定の是非に関する国会審議は、日本がこれまで経験した自由貿易協定をはるかにしのぐ、極めて重要な議論であります。このような議論を行うにもかかわらず、その議論の場に、交渉を担った前大臣もいない。首席交渉官もいない。いるのは就任前公然と、関税自主権を完全に放棄するようなTPPには反対と明言していた、石原大臣です。前言を翻した、担当大臣が、一夜漬けのようなにわか知識で空虚な答弁を繰り返しても、国民の付託に応える議論はできません。断固抗議します。

人のみならず、情報もまた隠されようとしています。TPP協定を審議していくにあたって、極めて重要な点は、何を勝ち得たかであると同時に、我が国の利益がどのように主張されてきたかを、検証することです。そのため私たちは、交渉参加以来、再三再四、情報の公開を求めて参りました。その度に政府からは、交渉に関わることで、お答えできないという、紋切り型の回答が繰り返されるばかりでした。これでは、国民の付託に応える議論ができないので、旧民主党と旧維新の党は、一致して、通商交渉に関する情報提供の促進を求める法案を提出して参りました。今回合意に至り、交渉過程を検証すべく、民進党の追及チームで調査をスタートしたところ、今度は、閣僚級協議や、事務レベルの協議では、記録が一切作成されていないとの回答が繰り返されております。仮に記録が一切ないということであれば、決議を守ろうとする姿勢そのものが、欠如していると言わざるを得ません。まさに、国会軽視です。TPP協定の閣僚級協議や、事務レベル協議では、一切記録を作成していないのか。その他の文書においても、交渉経緯に関する情報を公開するお考えはないのか。担当大臣の答弁を求めます。

 

聖域は守られていない

国会決議との関係についてお伺いします。交渉へ参加するにあたり、衆参農林水産委員会では、政府に対し、与野党一致して、決議を行いました。この決議こそ、国益を守ることができたか否か、国会が批准を是とするか否かの、重要かつ明確な基準です。この決議では、重要5品目は、除外または再協議とすること。そして、聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合には、脱退も辞さないと、政府に対し厳しい姿勢を求めて参りました。しかし結果を見れば、聖域である重要5品目は、除外にも、再協議にもならず、なんと約3割の品目で、関税は削減または撤廃される結果となりました。この結果をもって、聖域が確保された、国益が守られたなどと強弁するには、あまりに無理があります。この一点をもってしても、協定は国会決議に違反するものであり、日本の国益は守られなかったと、評価せざるを得ません。果たして国会決議は守られたのか、総理の明快なご説明をお願いします。

 

自治体と国が行った生産減少額の試算に20倍以上開きがある

農林水産業への影響についてもお尋ねします。農林水産省が昨年示した試算では、TPP協定が発行されても、対策を講じていれば、最大2100億円程度の生産減少額に留まるとされました。しかし説明を求めてみると、輸入は増え、人口は減少するにもかかわらず、生産量は変わらないという、極めて理解不能な試算となっています。事実、自治体が独自に行った生産減少額の試算によれば、国の試算と、20倍以上の開きがある件も存在します。閣僚席の皆さん、与党の皆さん。国民の声、生産者の声をしっかりと聞かれたのでしょうか。影響が大きいことをひた隠すために、農業の現実を直視せず、切り捨てようとすることは、欺瞞に満ちた過小評価であり、あまりに不誠実です。対策を講じない場合の影響試算など、実態の調査を再度行い、審議にあたって誠実に国会に示すべきと考えますが、農林水産大臣のお考えをお聞かせください。

 

参加各国で使用可能な農薬や食品添加物がそれぞれ異なる

最後に、食の安全・安心についてお伺いします。食料自給率が決して高いとは言えない日本は、農産物や加工食品の輸入が多く、特に、小さいお子さんをお持ちのご家族などにとって、食の安全・安心は大きな関心事です。国会決議でも、食の安全・安心および、食料の安定生産を損なわないこと。これを政府に求めています。今回の合意において政府は、日本の食品の安全が脅かされることはないとの説明を続けていますが、しかし協定においては、新たな義務付けを行う場合に、輸出国側の利害関係者の関与が確保されるよう規定が置かれ、遺伝子組換え食品の表示も、同様に適用されることとなっています。また、参加各国において、使用可能な農薬や、食品添加物がそれぞれ異なることから、日本の安全基準はしっかりと守られるのだろうか、心配の声も広がっています。この場で確認させてください。食の安全・安心は損なわれていないのか。そして損なわれる可能性はないのか。担当大臣の見解を伺います。

与党の席に座る多くの方々は、過去、民主党のTPP交渉には反対と発言されてこられました。そのような皆さんが、選挙で嘘をつき、今は、アベノミクスの切り札などと、さらなる嘘を重ねておられます。それが嘘であり、嘘の上塗りだとしても、失敗に次ぐ失敗を重ねるアベノミクスの大きな穴をしっかり埋めるような、目に見える成果があるのであれば、私たちは前向きな議論に臨みたいと思っております。しかし、記録は作っていない、交渉経過は検証できない、守りきると約束した聖域でも、相当数で関税撤廃を飲まされる。優位に立つべき自動車分野でも、大幅な譲歩を重ねた。この状態で、漫然と国会の審議を求めてくるのは、不誠実です。私たち民進党は、この国会での議論を通し、あの嘘から今も続く、安倍政権の慢心と驕りが、いかに国益を傷つけ、いかに国民の暮らしを脅かそうとしているか、しっかりと、厳しく検証していくことをお約束申し上げ、私の質問とさせていただきます。

 

農林水産品の約2割で関税等による保護を維持

安倍内閣総理大臣:

自民党の公約との関係についてお尋ねがありました。2012年の衆議院選挙における自由民主党の公約は、聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉の参加に反対する、というものでありました。政権発足後まもない、2013年2月には、オバマ大統領との首脳会談で、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することは求められないことなどを直接確認した上で、交渉参加を決断しました。我が国は、交渉を主導することで、農林水産品の約2割について、関税等による、保護を維持しました。厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができました。こうして、自由民主党がTPP交渉に先立って掲げた国民の皆様とのお約束は、しっかりと守ることができたと考えております。

 

新しいセーフガード措置と必要な経費を補正予算に計上

国会決議との関係についてお尋ねがありました。TPP交渉の結果、米などの重要品目について、関税撤廃の例外を、しっかり確保しました。牛肉などの輸入が、万一、急に増えた場合には、緊急的な輸入を制限することができる、新しいセーフガード措置を設けることも認められました。それでもなお残る農業者の方々の不安を受け止め、昨年11月、総合的なTPP関連政策大綱を決定し、緊急に実施すべき対策に、必要な経費を補正予算に計上しました。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置と合わせて、引き続き万全の措置を講じていきます。交渉結果が、国会決議にかなうものかどうかは最終的に国会でご審議いただくことになりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけるものと考えております。

残遺の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。

 

秘密保護に関する書簡により各国との具体的なやりとりは公表できない

石原国務大臣:

諜報会議についてのお尋ねがございました。TPP交渉についてはこれまでの交渉会合の期間中や会合終了後に適宜記者会見を行い、情報提供に政府としては努めて参りました。また、大筋合意後には、地方開催も含めて多くの説明会を実施して参りました。このように政府としては丁寧に対応してきていると考えております。

TPP協定に関する文書については、個々の事案に応じて適正に制作し、保管をさせていただいているところでございます。今後の審議におきましても、TPP協定の各規定の内容や趣旨、解釈等について引き続き丁寧に説明を行って参ります。なお、我が国を含めまして、TPP協定の交渉参加国は交渉参加にあたって、秘密保護に関する書簡により各国との具体的なやりとりについては公表しないと、決められております。こうした事情から、交渉段階での情報を説明することに、制約があるということは是非ご理解をいただきいたいと思います。

 

TPP協定によって日本の制度が変更されることはない

食の安全等々の影響についてのお尋ねがございました。TPP協定による食の安全に関するルールは、日本が既に締結をしておりますWTO協定の中の、衛生植物検疫措置協定、いわゆるSPS協定をふまえた内容となっております。したがいまして、残留農薬、食品添加物の基準、遺伝子組換え食品等の安全審査や表示を含めまして、TPP協定によって日本の制度が変更されることはございません。我が国の食の安全・安心が、脅かされるという懸念は当たらないものと考えております。他方、ご指摘の心配のお声に対しましては、これからも丁寧に説明を行って参ります。

 

体質強化対策や経営安定対策などの国内対策によって、国内生産量は維持される

森山農林水産大臣:

山尾議員のご質問にお答え致します。農林水産業への影響について、対策を講じない場合の影響試算などの再試算についてのお尋ねがありました。今回の農林水産物の試算については、あくまでもTPPの影響のみを考慮したものであり、将来の人口減少などの他の要因については、考慮しておりません。試算では、交渉で獲得した措置とともに、体質強化対策や経営安定対策などの国内対策により、国内生産量が維持されると見込んでおります。また、TPPの影響については、36の道県において、一定の試算が行われており、この内32の道県は、国に準じた試算方法を取っていると承知しています。今回のTPP交渉の結果、国家貿易等の国境措置や、長期の関税削減期間等が設定されたことから、平成25年3月のような、関税は即時撤廃、国内対策は講じない、種・競合品は原則海外産に置き換わるという単純化した前提を置いた試算を行うことは、困難であると考えています。

また、政策大綱および関連予算を決定するなど、すでに国内対策の具体化を進めている中で、国内対策を考慮しない試算を行うことは、現実とかけ離れた仮定に基づいたものとなりかねないことからも、適当でないと考えています。したがって、再度試算を行う考えはありません。今後も現場でご努力をいただいている方々の気持ちを大切にしながら、これまで進めてきた農政改革や、政策大綱に掲げた政策を着実に実行して参ります。これにより、次世代を担う生産者が新たな国際環境のもとでも、夢と希望を持って、所得の向上を図り、経営発展に積極果敢に取り組んでもらえるような、農政新時代を切り開いて参ります。

衆議院インターネット中継より

 

質疑を見ると、前半は与党批判で多くの時間を割いており、本題であるTPPや関連法案の中身についてあまり質問が出なかったことは残念である。もし情報公開が不足しているがゆえに指摘すら困難な事項が多いのであれば、懸念される具体的なデメリットを示した上で、ピンポイントで検証のために不足している情報を要求すべきだったのではないか。また、日本の農林水産品の関税撤廃率は81%だが、11カ国全体では98.5%と、安倍総理の「厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができた」という反論は理解できる。

一方、森山農林水産大臣の「TPPの影響のみ」で「将来の人口減少など他の要因」は考慮していないというのは実態を把握できているか不明な上、輸入増が予想される中で体質強化対策や経営安定対策で本当に生産量が維持されるのかもよくわからない。今後のTPPの議論では、より具体的な中身について議論が進むことを期待したい。

与野党は、特別委で6日に承認案などの趣旨説明、7、8の両日に安倍晋三首相も出席して質疑を行うことで合意している。

 

関連記事:

<山尾志桜里議員インタビュー>「絶望の中から希望が生まれた」ー待機児童問題

Pocket