教育 日本

改正が求められる「いじめ防止対策推進法」(渋井哲也)

Classroom2
Pocket

いじめ防止対策推進法が成立して3年が経とうとしている。同法成立によって、いじめが法的に定義づけられた。いじめ予防教育や早期発見、相談体制の整備などが図られ、また、いじめを理由に、自殺や自殺未遂、長期の不登校があった場合を「重大事態」と捉えて、調査委員会が設置された。しかし、調査委が遺族(家族)との信頼関係が築けないケースや、調査の不備な点が指摘されている。

 

法案成立のきっかけはいじめによる自殺

同法は2013年6月に成立、9月に施行された。きっかけは11年10月、滋賀県大津市内の中学校で男子生徒(当時中学2年生)がいじめを苦にした自殺したことだった。同級生から手足を縛られ、口に粘着テープを巻かれるなどの行為に及んだ。貴金属や財布も盗まれた。自殺前日、自殺をほのめかすメールを加害者に送信したが、無視された。翌日、自宅マンションから飛び降り自殺している。

学校側は当初、いじめの事実を把握していなかったとしていたが、生徒が自殺する6日前に報告を受けて、検討をしたことは認めた。しかし学校側は喧嘩と認識していたと説明している。後に学校や市教委の調査は不十分であると、批判も浴びた。そのため、市長直属の「第三者調査委員会」ができることになる。

当時のいじめの定義は、文科省が07年に定めた「当該児童生徒が一定の人間関係のある者から、心理的・物理的攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」だが、当事者は聞き取りで否定することも多いことから、「個々の行為がいじめに当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うように徹底させる」という但し書きがある。そして、調査委では「一定の人間関係にある者」であっても、「力関係のアンバランスが生じている」状態をいじめとした。

このときの調査委の確認のポイントは、1)教育現場の生徒や教員たちに寄り添いその言葉に耳を傾けること、2)亡くなった生徒がなぜ死を選んだのかを忘れないこと、3)遺族の視点を忘れないこと、4)加害をしたとされる生徒の視点をしっかり受け止めること、5)その上で事実解明にあたること、だった。しかし、担任は体調不良を理由に、聞き取りができなかった。

 

報告書によると、当初は亡くなった生徒と加害をしたとされる生徒たちの間は良好だったが、9月ごろから徐々に悪化していく。1学期からしていたプロレスごっこも徐々に一方的になり、亡くなった生徒は「きもいな」「イライラする」と言われるようになっていく。だが、亡くなった生徒は反抗しないでいた。手足を縛られたのは体育大会の当日だった。その後もいじめ行為は続いていく。10月に入ってからは自殺の練習をさせられている。そのため、いじめが自殺の「直接的要因」になった、とした。

同法は大津いじめ自殺をモデルに作られたと言ってもよいだろう。いじめの定義も文科省の通知とほぼ同じ。「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」。

 

いじめ防止対策推進法の課題

大津のいじめ自殺では、もともとは「仲良しグループ」だったが、いじめの加害・被害の関係に変質している。最初からわかりやすいいじめグループとは限らないのが現代のいじめだ。そして、少なくとも事後に、大津のような第三者調査委ができれば、事実関係が明らかになることが期待されている。

 

  • 「トラブル」では調査委が設置されない

同法に基づく調査委は学校が設置する場合と、市町村教委が設置する場合がある。そもそも、遺族(家族)がいじめの可能性を訴えても、学校や市教委が「トラブル」と認識する場合、調査委そのものが設置されない場合もある。

ある中学生が遺書を書き、自殺しようと思って夜間に外出したところ、警察官に保護された。メモから保護者はいじめがあったというが、学校側は否定している。この場合、調査委が設置されていない。

 

  • 初期調査の方法も特に決まりがない

また、初期調査が重要になるが、児童生徒へのアンケートや聞き取りが遅い場合がある。アンケートの取り方が匿名か実名か、学校での回収か、家庭からの郵送かによっても、調査依頼元が学校か調査委かでも答えづらさが違いだろう。ただ、初期調査のマニュアルがあるわけではない。いじめかどうかの判断が、調査委によっても変わっている。一つ一つの行動がいじめかどうかの判断をして、全体性を見ていない場合もある。また、いじめと自殺との因果関係についても、いじめ行為があった時期と、自殺した時期が遠いと因果関係がないとみなす傾向がある。PTSDによるいじめ後遺症という頭がないのだろうか。

 

  • 遺族の権利も明示されていない

さらに調査プロセスに遺族(家族)がどう参加できるのかもまちまちだ。プロセスで遺族(家族)に逐一報告がある場合もあれば、情報が知らされない場合もある。法文上も、いじめ防止に関する責務では触れているが、調査時に遺族(家族)がどのような権利があるかは明示がない。同法が公布されたときの文科省通知でも、遺族(家族)との関わりについては書いていない。

同法成立以前の11年6月、文科省は「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について」という通知を出している。そのなかで「万が一自殺等事案が起きたときは、学校又は教育委員会は、速やかに遺族と連絡を取り、できる限り遺族の要望・意見を聴取する」とあり、また、遺族からの要望がある場合は、初期調査よりも詳しい調査の実施を協議する、となっている。同法施行にともない、実際の運用にあたって課題がみられたことで改訂版が作られた。遺族とのかかわりについても詳細に検討されているが、基本的なスタンスは変わらない。

 

こうしたことを考えれば、初期調査が行われる時期や方法、調査時の遺族(家族)の権利について、明示すべきではないか。これまで設置している調査委を調査し、より具体的に記載すべきだ。また、調査委の報告に異議申し立てがある場合、現在は、法のシステムとは別に、県知事部局で再調査が行われている。この再調査についても、法文で明らかにすべきではないか。今後、さらにいじめ防止対策推進法の改正が求められる。

 

関連記事:

【児童福祉法改正案】保護から権利ベースの児童福祉へ

埼玉カンニング自殺、最高裁棄却ー自殺に年齢は関係あるか?

 

渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙を経てフリーライター。子ども・若者の生きづらさ、自殺、自傷、依存、虐待の問題を主に取材。教育問題やいじめ、少年犯罪、性犯罪、性の多様性、ひとり親、東日本大震災などもテーマにしている。著書には『自殺を防ぐいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、近著に『復興なんて、してません』(第三書館、共著)などがある。ツイッターIDは@shibutetu

Pocket