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高校生の自殺にも見舞い金支給を 弁護団申し入れ(渋井哲也)

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高校生が自殺した場合、「故意による死亡」として、独立行政法人「スポーツ振興センター」の「災害給付金」が支払われないケースが多い。この問題で、「学校事故・事件弁護団」は4月22日、所管する文部科学省と同センターに、「規定を見直すよう」申し入れをした。

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自殺対策基本法や憲法の平等原則に反している

意見書によると、法律では、学校管理下で児童生徒が災害(負傷や疾病、障害、死亡)に見舞われた際、災害共済給付を行うことになっている。その一方で、施行令では、生徒または学生が、「自己の故意の犯罪行為」、または「故意に、負傷し、疾病にかかり、または死亡」には、災害共済給付は行わない、と定めている。高校生の自殺は「故意に死亡」にあたるとして、原則としては死亡見舞金は支払われない。

そもそも法律の趣旨は、紛争を未然に防ぐことにある。学校管理下で事故が起き、訴訟するとしたら、国家賠償法にもとづく損害賠償請求になる。その場合、生徒側が学校の過失を立証しなければならない。しかし、立証には困難が予想される。また、教育活動の消極化、萎縮化をまねく。そのため、学校と生徒の対立を解消しつつ、被害を救済するために、給付金を支給する、というものだ。

また、センターは高校生の自殺を「故意による死亡」としているが、「自殺対策白書」では、大多数の自殺者は、その直前、何らかの精神科診断が認められることが明らかになっている。自殺する人は、必ずしも十分な判断力を持って自殺という自己決定を行っているわけではない。自殺対策基本法の趣旨にも反する。

小・中学生の自殺と、高校生の自殺との間に差があるが、合理的な理由もなく、憲法の平等原則にも反している。ただ、精神科への通院歴があれば見舞金が出される場合もあるが、通院歴がなくても給付されているケースがある。このあたりの決定の差は何なのか。明確な基準があるわけではない。

今年3月、愛知県立刈谷工業高校の野球部生徒が自殺した件でも、見舞金の支給決定が出されている。指導者が部内で体罰を繰り返し、その生徒には暴言を繰り返しため、部をやめよとしたがそれができず、練習に行かないでいた。呼び出された生徒は、それに応じず、自殺した。当初、センターは「故意による死亡」のため不支給だったが、新たな資料とともに不服申立てをした結果、支給決定となった。

 

「自殺は、その多くが追い込まれた死」

一方で、首都圏の私立高校の生徒が、カンニングの指導で職員室に呼び出しをしたが、その際に校舎4階から飛び降りて死亡した。センターは「故意による死亡」として、支給されなかった。遺族は「自ら望んだ死」ではない、として、センターを訴えた。しかし、最高裁まで闘ったが、2月、敗訴が確定した。

遺族は「最高裁で敗訴になった後、支給決定になったケースがある。文科省の考え方が変わったのか。私たち遺族は、その違いはなんだろうと考えている。子どもは“好きで死んだ”のではない」と見直しを訴えた。

名古屋市の名古屋経済大学市邨中学校(名古屋市千種区)でいじめにあった生徒は、その後遺症でPTSDとなり、解離性人格障害にもなった。その末に、自宅マンションから飛び降りた、遺族は、法人を相手に損害賠償を求めた。一審ではいじめを認定し、後遺症との因果関係、後遺症と自殺との因果関係、自殺の予見性までも認めた画期的な判決だった(二審では一部を認めなかったが、確定)。

遺族は「センターには『高校生の自殺には支給されない』と言われた。申請したときは、司法の判断次第と言われたが、判決前に不支給の決定が出た。その理由が学園側の“いじめはない”とした書類だった。どうか、あやまった判断を撤回してください」と述べた。

文科省の担当者は、現在、法的な整合性を含めて検討中であること回答した。大臣も国会で見直し答弁をしているためだ。昨年9月2日、第189階国会の文部科学委員会で初鹿明博委員が、自殺対策大綱の「自殺は、その多くが追い込まれた死」との文言を引用し、高校生の自殺には不支給としている現状について「見直すつもりはないか?」と質問した。下村博文大臣(当時)は「柔軟な見直し」をすると答弁した。施行令を見直しする場合は、閣議決定が必要になるため、法制局とも検討し、他の省ともすり合わせなどを行うことになる。センターでも弁護団は同様の申し入れをした。

 

小・中学生の自殺と、高校生の自殺に、精神医学的な意味での差はない。それは大人でも同様だ。なおかつ、カンニング指導自殺では控訴審で、患者を直接診断していないとして、心理学的剖検による意見書も否定した。大人の過労自殺では労災認定される方法で、なぜ、学校管理下での高校生の自殺には適用されないのか。文科省が検討作業に入っているが、なるべくセンター法の趣旨に沿った見直しをしてほしい。

 

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渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙を経てフリーライター。子ども・若者の生きづらさ、自殺、自傷、依存、虐待の問題を主に取材。教育問題やいじめ、少年犯罪、性犯罪、性の多様性、ひとり親、東日本大震災などもテーマにしている。著書には『自殺を防ぐいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、近著に『復興なんて、してません』(第三書館、共著)などがある。ツイッターIDは@shibutetu

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