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<米大統領選>もしトランプが大統領になったら日本はどうなるか?

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ついに、不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に選ばれることが確実となった。支持率はトップになりながらも、「まさか」本当に選ばれる訳がないというのが主要メディアの見方であったが、最後まで残っていたテッド・クルーズ上院議員、ジョン・ケーシック オハイオ州知事が撤退を表明、残るはトランプ氏一人となり、指名が確定した(厳密にはまだ確定ではないが、ほぼ確実と言っていい)。

 

一方、民主党の候補はヒラリー・クリントン前国務長官が選ばれると見られ、大統領になる可能性も高いが、私用メールアドレスを公務に使っていた問題は根が深く、先日にもヒラリー氏の側近がFBIから事情聴取を受けている。

 

では、仮にトランプ氏が大統領になった場合、日本にどのような影響を与えるのか、その時日本はどうすべきなのか。

 

選挙スローガンは「アメリカを再び偉大に」

トランプ氏は、以前にも紹介したが、公約としては大きく5つ挙げている

 

・米中貿易の改革

中国の人民元切り下げを止めさせ、環境基準や労働基準を改善させる。また知的財産保護やハッキングに対して厳しく対処する。「中国はアメリカの雇用とカネをかすめ取っている」と言い放っている。

 

・退役軍人省の改革

退役軍人省の首脳部を総入れ替えし、退役軍人の医療制度を変革する。具体的には、退役軍人の病院での待ち時間を減らせるように仕組みを変え、増加する女性退役軍人の医療充実のため、女性医療を専門とする医師の数も増やすつもりだ。またオバマケアは大失敗だとし、自由市場原理で動く医療保険計画を提案している。

 

・税制の改革

年収2万5000ドル(約300万円)未満の人の所得税を免除する。法人税率を15%引き下げ、多国籍企業が海外に滞留した所得は税率10%で国内に還流させることができるようにする。最低賃金の引き上げには反対し、労働コストの低い海外に移転した製造業の雇用を米国に戻すべきだとしている。

 

・武器の所有権利

銃規制強化に反対し、銃購入時の身元調査の範囲拡大にも反対している。また銃乱射事件を減らすために精神医療に投資すべきだとしている。

 

・移民の改革

オバマ政権が大統領令で導入した移民制度改革を撤廃し、数百万人に上る不法移民を強制送還する。ムスリム系米国人のデータベースを強化し、モスクを監視すべき。米国とメキシコの間に「大きな壁」を建てる(トランプ氏は以前からメキシコ人を強姦犯などと罵倒している)。

 

こうした公約に加え、日本に関しては日米安保条約、貿易について言及している。

 

全額負担しなければ撤退する

3月26日、New York Timesのインタビューに答えたトランプ氏は日米安保条約についてこう発言した。

「我々が攻撃されても日本は防衛する必要がない。米国は巨額資金を日本の防衛に費やす余裕はない」。

 

昨年末にも「誰かが日本を攻撃したら、我々はすぐに駆けつけ、第三次世界大戦を始めなければいけないんだろう?我々が攻撃されても日本は助けない。フェアじゃないだろ?これでいいのか?」と不満をぶつけており、日本や韓国が米軍の駐留経費を全額負担しなければ撤退させると主張。「米国は強い軍事力を持った裕福な国だったが、もはやそうではない」と述べている。

また、日本や韓国が北朝鮮や中国に対抗するために核兵器を保有することは否定しないとも述べている。

 

日本の核武装を期待する声

こうした声に対し、徐々に日本の政治家も反応を示している。

安倍首相は、4月5日Wall Street Journalのインタビューで、米軍が撤退し日本を自衛に委ねることができるかとの問いに、「今、予見しうるなかにおいて、米国のプレゼンスが必要ではないという状況は考えられない」と明言、「日米同盟が強化されることで抑止力が強化され、それは日本のみならず地域の平和と安定に貢献」すると語った。

 

5月6日には、石破茂地方創生担当相がトランプ氏が日韓の核武装を容認していることについて、「仮に日韓が核武装を選択すれば、地域の不安定性が増し、米国の利益にはならない」と述べ、支持しない考えを明確にした。一方、将来的に日本の憲法を改正し、日米安保条約や在日米軍の地位を定めた日米地位協定を改定できれば「最終的には『共に守り合う』形の同盟を実現させることも今後構想していかねばならない」と主張した。

 

おおさか維新の会の松井一郎代表は「僕は核保有するのは嫌」としながらも、「何も持たないのか、抑止力として持つのか、という議論をしなければならないのではないか」と、核保有の是非について議論すべきだと主張している。

 

国会では既に、横畠裕介内閣法制局長官が「憲法上、あらゆる核兵器の使用が禁止されているとは考えていない」と答弁しており、閣議でも「憲法9条は一切の核兵器の保有および使用をおよそ禁止しているわけではない」とする答弁書を決定した。答弁書ではこう書かれている。

「自衛のための必要最小限度の実力保持は憲法9条でも禁止されているわけではなく、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、保有することは必ずしも憲法の禁止するところではない」

 

一方、一部保守派の間で、日本の対米自立の好機だとトランプ大統領を期待する声は確かに存在し、結果としての核武装を期待する声も全くない訳ではない。さらに韓国で核武装が実現すれば日本にも、という声は強まるだろう。直接的な危機と隣接している韓国では核武装を求める声は強まっており、中央日報が2月に行った世論調査では核武装賛成が67.7%にもなっている。

 

だが、現実的に核武装を検討すれば、核開発を行っている期間に中国から攻撃される可能性、NPT(核不拡散条約)から脱退する必要性、核武装コスト(年間約3000億円、現在の在日米軍関係費は約4300億円)など、実現性が乏しいことは明確である。

さらに、「米軍の駐留経費を全額負担しなければ撤退させる」という主張も、米国が日韓以外にも安保条約を結んでいる国は多く、全ての国が負担増を受け入れるとは想像しにくい(参考:同盟国一覧)。

 

オバマ大統領はトランプ発言を強く批判し、「そんな発言をする者は外交や核政策、朝鮮半島や世界情勢を理解していない」「米国と日韓の同盟関係によってこの地域で核開発競争が起きるのを防いできた」と述べた。

 

また、米国が最も海外援助を行っているのはイスラエルだが、”ポピュリスト”であるトランプ氏はこれには言及しないであろう。
Infographic: Where The Most Foreign Aid Will Be Spent In 2016 | Statista
You will find more statistics at Statista

 
このように、現時点でのトランプ氏の主張が、仮に大統領になっても、現実になる可能性は低い。しかし、昨年の安保法案のように、イデオロギー的に「有り得ない」と思考停止するのではなく、今後の日米関係をどうするかも含めて、「世界の警察官」が存在しなくなりつつある今日本の安全保障政策について議論を深めていく必要はあるだろう。

 

実現が危ぶまれるTPP

また、トランプ氏は5月6日、日米の貿易関税率について言及し、「日本から何百万台も自動車が流れ込んでいるが、ほとんど関税がかかっていない」とした上でこう主張した。

「もし日本がネブラスカ州の牛肉に38%の関税をかけるのであれば、我々も日本車に同率の関税を請求するつもりだ。」

現在、日本から輸入する車にかかる関税は2.5%だが、日本車の多くは海外現地で生産されており、依然として北米がトップである。

さらに、アメリカ産牛肉にかかる関税もTPP発効時には27.5%に引き下げられ、その後も段階的に下げられる予定となっている。こうした事実を知った上での発言なのか、知らずに発言しているのかよくわからないが、上記の発言はあくまで米国内向けであり(前提として、トランプ氏はアメリカ国内の票を得るために発言しており、投票権を持っていない海外から嫌われようが気にしない)、日本車への関税が引き上げられてもそこまで大きな影響はないだろう。

しかし、TPPに関しては反対の立場をとっており、再び条件を巡って再交渉が行われる可能性は高い。

日本の国会では、情報開示や答弁の不十分さを理由に野党が審議中断したため、議論は進んでおらず、今国会での成立は見送られている(関連記事:審議中断となったTPP特別委。何があった?)。

 

ヒラリー大統領が有力だが…

共和党候補がトランプ氏に絞られ、副大統領候補が注目を集めているが、スイング・ステート(激戦州)で票を集められる人物を選ぶ可能性が高い。スイング・ステートで特に重要なのはフロリダ州(29票)とオハイオ州(18票)だ。その中で、最有力だと見られているのはオハイオ州知事のケーシック氏だ。ケーシック氏もトランプ支持を表明している。票数から見れば、フロリダ州の支持を集めたいところだろうが、ジェブ・ブッシュ氏からは不支持を表明され、討論会で不仲を見せていたルビオ上院議員を選ぶ可能性も低い。

一方のヒラリー氏はブッシュ家の支持者からの支持を得ようと既に動いていることがPoliticoで報道されており、統計データなどからもヒラリー氏が有力だという見方は強い。

 

しかし、未だにバーニー・サンダース上院議員に勝ちきれずにいるヒラリー陣営にも焦りと苛立ちが見られる。Twitter上ではサンダース支持者による#BernieOrBust(バーニーでないなら破壊する)というハッシュタグが盛り上がっており、サンダース支持者が本選でヒラリー氏以外の候補に投票する可能性もある。ここまで長期的に対立関係が続ければ、対立候補に対する敵意は強まる一方だ。また、ヒラリー氏に対する嫌悪感は反エスタブリッシュメントから来ており、サンダース氏の支持層とトランプ氏の支持層は重なる部分も多い。

仮に、ヒラリー氏がサンダース氏を副大統領候補に選べば、ヒラリー氏が本選で勝つ可能性は高まるだろうが、実務上、頑固なサンダース氏ではやりにくい。他にはマサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン上院議員の名前が挙がっているが、大統領、副大統領ともに女性では一部の層から支持を得られないだろうし、これも可能性が低い。他にも何人か名前が挙がっているが、ヒラリー氏と同じくエスタブリッシュメント層に属する人物で、最適な人物が見つかっていないのが現状だと思われる。

 

さらに、冒頭で述べた通り、私用メールアドレス問題は大統領としての資質を疑われかねないし、「ベンガジ事件」も懸念の一つとして存在する。2012年9月11日、預言者ムハマンドを冒涜する内容の映画を公開したとして、北アフリカと中東の各国で大規模な反米デモが起こり、リビアのベンガジにあるアメリカ領事館の前でも数千人が集まって抗議デモを行った。だがデモの途中から武装集団がロケット弾などで領事館を襲撃、CIA関連施設も襲撃され、激しい銃撃戦の末、アメリカ側は大使を含む8名が死傷、リビア人武装集団側も約100人が殺害された。オバマ政権は当初、映画が原因だと説明したが、メディアへの政府関係者のリークによって、武装集団がアルカイダと繋がりのある組織で、現地スタッフが事件前から警備の強化を求めていたにも関わらず、ヒラリー氏が当時長官を務めていた国務省が対応を怠っていた疑惑が浮上し、批判を受けている。

 

このように、ヒラリー氏にも懸念材料は多く、トランプ氏が大統領になる可能性は決して低くない。実際にどうなるかは本選投票が近づかなければわからないが、誰が大統領になっても、米国が予算の関係で在日米軍を撤退もしくは負担増を迫るのは時間の問題だと思われる。もし本当にいなくなったらどうするか、もしくはさらにお金を払うのか、その価値は本当にあるのか等、今まで目を背けてきた問題を真剣に議論していかなければならないだろう。

 

「敵」をつくる言葉にどう立ち向かうのか

そして、国内経済が不安定化する中で、国外に不利益を与えてでも国内を優先する姿勢は今後世界中で増えていくだろうし、日本も例外ではない。実際、フィリピンでもトランプ氏のように過激な発言を続けるロドリゴ・ドゥテルテ氏(ダバオ市長)が大統領になる可能性が高まっており、勧善懲悪的な言葉を語り、支持を集めている。日本でも格差が広がりつつあり、今後さらに社会が分断されれば、このように「敵」をつくるような言葉が多く使われるだろうが、その時にどういう態度を示すのか。政策の話は政治家や官僚が中心となって考えることになるが、「敵」をつくる言葉に対し社会がどう向き合うのかは国民の空気にかかっているだろう。

 

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