ヨーロッパ 中東 安全保障

ウクライナ対ISへの空爆に参加かーロシアとの衝突は必至

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ウクライナがアメリカ・ヨーロッパと協力してシリアでのIS空爆に参加することを検討している。今週、米国国防長官アシュトン・カーター氏がウクライナを訪れ、ウクライナ国防省にイスラム過激派との戦いに参加するよう要請した。

これに対し、ウクライナ政府は「シリアでのISとの戦いをサポートする準備は進めてきた。もし実際に参加すれば、ロシアと衝突する可能性はある」と答えている。また7000人程度兵隊を送るかもしれないとしている。

一方、ロシア議会下院国際問題委員会のアレクセイ・プシコフ委員長はTwitterで以下のように述べた。

「ウクライナ軍を中東に送り込むことはダーイシュ対策の役に立たないばかりか、米国は大きな問題をいたずらに抱えこむことになる。ウクライナ軍の戦闘能力はよく分かっているはずだ」

 

未だ解決していないウクライナ問題

ウクライナとロシアのこの険悪な関係は、ウクライナ問題が背景にある。

ロシアのプーチン大統領が住民投票を経てクリミアをロシア領に編入したのは2014年3月だが、その後ウクライナ政府は欧米との距離を縮めEU・NATO入りに向けて準備を着実に進めている一方、欧米はウクライナ問題をめぐって対ロシア経済制裁を続けている。

 

そもそもなぜウクライナ問題が起こったか

ただ最近日本ではあまりウクライナ問題が報道されておらず、改めて整理しておきたい。

ウクライナは、ソ連の崩壊前はソ連の一部であり、民族的にもロシアに近かったが、冷戦終了後、ウクライナが(経済成長を求めて)欧米との関係を強化し、ウクライナ国内で親欧米の西側(ウクライナ語系)と、親ロシアの東側(ロシア語系)勢力で分かれるようになる。

そして2004年、親ロシア派のヤヌコーヴィチ氏が大統領に当選するが、選挙に不正があったため再選挙となり、親欧米のユシチェンコ氏が大統領となる(いわゆるオレンジ革命だ)。

その後、ユシチェンコ政権はEUとの「連合協定」締結(加盟申請のための予備協定)の準備を進めるが、ロシアが天然ガス供給を停止するなど圧力を強めたため経済が好転せず、2010年の大統領選挙でヤヌコーヴィチ氏が再び当選、大統領となる。

ロシアとの関係性を強化したいヤヌコーヴィチ氏は2013年11月にEUとの交渉を停止。これに強く反発した西側勢力は反政府デモを起こし、ヤヌコーヴィチ氏は首都キエフから逃亡(2014年2月)。だが、クリミア半島にある黒海艦隊基地を守るため、ロシアのプーチン大統領はウクライナ南部のクリミア自治共和国をロシアに併合。また、親ロシア派の東側勢力は独立を行おうと地方政府の施設を占拠、武力衝突にまで発展した。

 

欧米寄りになりロシアとの対立を深めるウクライナ

その後はヤヌコーヴィチ氏がいなくなったため、大統領選挙が実施され、新欧米派(もはや言いなりになっているが)のポロシェンコ氏が大統領に就任、EUとの連合協定に署名した。

東西では何度か停戦が合意されているが(昨年2月に仏、独、露、ウクライナの4カ国でまとめたミンスク合意など)、対立は続いており、親ロシア派の武装勢力に対抗するため、ウクライナ政府は常に4万人の兵隊を配置している。また、2014年に新ロシア派が議会を占領しドネツク人民共和国建国を宣言したドネツクでは銃撃が続き、ドネツクに入った西側の人道活動家などが拘束されている。

東側は解決に向けて、地方分権と東部の紛争地域に「特別な地位」を与えることを要求しているが、ウクライナ議会は憲法改正に必要な3分の2の賛成票を集めるには至っていない。ただ、欧米諸国が問題を収束させるために圧力をかければ憲法改正を行い、解決に向かうかもしれない。

 

経済が悪化の一途を辿るロシア

一方、ロシア経済は経済制裁や原価安などの影響を受けて、一層厳しくなっている。ウクライナに対するガス供給も最初は値上げ交渉を行い優位に進めていたが、昨年にはウクライナがEUからの天然ガス輸入量を倍増、これまで最大の輸入先であったロシアからは激減と、ロシアにとって厳しい状況が続いている。ルーブルの暴落により、ロシアのドル換算の1人当たりGDPは昨年8400ドルで、3年前の約1万5000ドルから激減した。IMFは、昨年のロシアは推定3.8%のマイナス成長で、G20諸国の中で最悪の経済パフォーマンスと指摘した。実質賃金も減少し、2014年に4%、2015年も9%減少した。

こうした状況に対し、ロシアがウクライナ紛争への介入を止め、欧米からの経済制裁解除を目指しているという情報も入っている。昨年結ばれたミンスク合意の履行により積極的な姿勢を見せ始め、側近を交渉役に任命。さらにプーチン大統領の側近でウクライナ政策立案を主導したスルコフ氏とヌランド米国務次官補が会談を行った。

 

複雑な状況が続くシリア

また、シリア問題は多数の勢力が入り混じっており、混迷を極めている。ロシアは国際舞台に復帰しようと、ISへの空爆を行い(実際は反政府軍や住民含む)、アサド政権に休戦を呼びかけているが、アサド政権は拒否。さらに先日再びトルコ領空を侵犯し、関係が悪化している。イランはシーア派の勢力を強めようとアサド政権を支持する一方で、トルコやサウジアラビアは反政府軍をサポートし、対立が激化している。

現在ジュネーブで行われている和平協議でも、アサド政権との交渉に参加する反体制派グループの選定でロシアやサウジアラビアが対立し、開催が延期された。

そうした中でも、原油価格をめぐってOPEC(サウジアラビア)がロシアに協力を求め、減産の可能性を模索している。

このように複雑な状況下にあるシリアにおいて、さらにロシアと対立しているウクライナが加われば、シリアがますます代理戦争と化してしまう可能性もある。これはアメリカがロシアの影響力を弱めようとしているのかもしれないが、経済危機状態にあるウクライナにとっても(昨年にはIMFから財政支援を受けている)、さらに財政悪化を招くことになり、あまり得策とは言えない。このまま経済制裁や原価安が続けば、経済悪化が続くロシアはウクライナへの介入を弱めざるを得ず、問題は収束へと向かうだろう。こうした状況を考慮すれば、ウクライナは、むやみにアメリカに従うのではなく、まずはミンスク合意に基づく憲法改正に向けて国内をまとめるのが先決ではないだろうか。

 

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